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【書く人】

少女雑誌作りに情熱 『彼方の友へ』 作家・伊吹有喜さん(49)

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 作家になって十年。今年は作品が次々と羽ばたき、波に乗る。夜行の長距離バスを起点に人間模様を描く『ミッドナイト・バス』が映画化され、バレエ団を取り巻く人々の物語『カンパニー』は宝塚歌劇団の舞台に。そして本作は、子供のころ「オリンピックのような」大きなものだと思っていた直木賞の候補になった。「昔の自分にそっと伝えたら、きっとびっくりすると思います」

 物語の舞台は昭和十年代、少女雑誌の編集部。当時実在した雑誌『少女の友』から着想を得て、厳しい時代にあっても「読者に最上のものを届けたい」と奮闘する出版人らを描いた。「自分が直接体験していない時代で、資料をもとに世界観を構築したのは初めてでした」。ハイカラな美少女の絵で一世を風靡(ふうび)した画家・中原淳一を思わせる人物も登場し、おしゃれで華やかなムードで始まるが、やがて戦争の足音が、あらゆる形で彼らの身辺に影を落としていく。

 活気あふれる編集部の描写には、自身が大学卒業後、東京都内の出版社で五年ほど働いた体験が生きている。とりわけ深く印象に刻まれていたのは、昭和の黄金期を築き「伝説の女性編集長」とも呼ばれた大先輩の姿だ。「きっとどんな会社にも、女性のパイオニアがいる。そういう人たちが、後に続く人のために道を切り開いてくれたのだと思う」。彼女らへの「感謝と憧れ」を、ヒロインの人物造形に込めた。

 編集部を襲う時代の荒波は、インターネットにおされて下降線をたどる現代の雑誌業界の苦境とも、どこか重なって見える。ものづくりに携わる人に向けた、著者からのエールを読み取る読者も多いだろう。「誰かが込めた情熱は、時間がたっても伝わる。受け取った人の心をふるわせ、そこから生まれる新たな熱気は、別の何かを生み出す原動力になるはず」。準備段階で、戦前の雑誌や資料を数多く読み、それを確信したという。

 作家になった時、ペンネームは、父の故郷である岐阜県大垣市から見える名峰・伊吹山からつけた。幼少期から高校までを過ごした三重県四日市市では「観光大使」を務めるなど、地元愛ものぞかせる。

 「読んだ後で、気分が少し明るくなるような小説を書いていきたい」

 実業之日本社・一八三六円。 (中村陽子)

 

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