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【書く人】

世界の本質を見抜く 『最強の思考法「抽象化する力」の講義』 神奈川大教授・的場昭弘さん(65)

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 タイトルを見ればビジネス書だが、帯にはひげを生やしたカール・マルクス。

 「僕の写真を出すという話もあったのですが、生誕二百年のマルクスになりました」。そう言って、人気のマルクス研究者は笑う。

 研究室の壁にはマルクスの古いポスター。ソ連崩壊でお払い箱といわれて久しいマルクスの重要性を一貫して訴えてきた。「最も社会を救ってくれる学問を残したのに、最も嫌われているのがマルクス」と話す。

 本書でも「資本主義は人殺しではない。本当の人殺しは社会主義である」という説を批判する。『共産主義黒書』という本が、共産主義は世界で数千万人以上を殺したと主張する一方、資本主義のほうがもっと多く殺しているとする『資本主義黒書』も出ていると。貧しい人は飢え死にし、戦争に駆り出されたのだ。

 第二次大戦では、軍人や政治家が戦争犯罪を問われて死刑になるなどしたのに比べ、資本家はあまり責任を問われなかったといい、その理由を「経済行為と戦争責任の因果関係が明白でなかったからだ」と話す。

 資源や市場を求め、大国が侵略戦争を行った背景には、資本主義の飽くなき欲望があったというわけだ。

 「直接武器を持つか、命令をするかしない限り、殺人の責任は問われない。そこに、からくりがある」

 そうしたからくりを暴くため、ギリシャ哲学から福沢諭吉まで引っ張り出す。

 「常識に言いがかりをつけることが大事です。僕の講義は就職には役に立たないが、会社をクビになったときに役に立ちます」

 では、言いがかりをつけるための「最強の思考法」はどうすれば身につく?

 「古典に親しみ、世界で起こっていることを抽象化して全体を見ることです」

 例えばペリーが鯨を追って日本に開国を迫ったから明治維新が起きた−とみるのではなく、世界的な視野から考えるべきだという。

 「イギリスとフランスという先進資本主義国が、新たに台頭したロシアをクリミア戦争で封じ込めた。それをアメリカがアジアで支援した。その結果としてペリーが来航した−と考えないと現代も見えてこない」

 機関銃のように話し続けて二時間半。「マルクスの共産党宣言を読めば今のグローバル化が分かる。世界の本質を見抜くのに近道はありません」

 日本実業出版社・二〇五二円。 (中村信也)

 

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