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【書く人】

関わり、助ける生き方 『お隣りのイスラーム 日本に暮らすムスリムに会いにいく』 作家・森まゆみさん(63)

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 シリア人のせっけん販売業者、インドネシア人の舞踊家、セネガル人の会社員。出身も職業も違う十三人のイスラム教徒(ムスリム)に経歴や日本での暮らし向きを聞き、飾り気のない会話でありのままを伝える。例えば、日中の飲食を断つラマダン(断食月)を巡るやりとりはこうだ。

 <いまはラマダンだそうですが、おなかすかないですか?>。バングラデシュ人の食料品店主が答えて「慣れたね。ふだんご飯を食べる時間におなかすくね。(中略)そのあとだんだん気にならなくなる」。

 東京の下町に生きる人々を紹介する雑誌『谷中・根津・千駄木』などで、多くの聞き書き取材を手掛けてきた。いつも意識して目を向けるのは<日常>という。「何を食べて、何を着てるか。それでどんな人かだいたい分かります」

 二〇〇一年の米中枢同時テロの後には、同誌で地域のムスリムを特集した。「イスラムはみんな怖いと誤解されて困る」という生の声を伝えた。だがその後も、テロや過激派のニュースが続く。「これだけ世界中にイスラム教の人がいるし、旅行者も増えてる。日本人はもっと理解しないと」。そんな思いで、再び取材した成果が本書だ。

 その結果−。自分だけいい思いをしてはだめ。困っている人にはみんなが関わって助ける。彼らが「イスラムの教え」として語った内容は、自身が生まれ育った下町にも通じる部分が多かったという。「彼らに学ぶこともいっぱいあると思うんです」

 その一方で、衣食住や文化の話を聞くのがためらわれる人にも会った。シリア人の男性は、自分が生まれた翌年に父が第三次中東戦争で戦死した、と語った。トルコ出身のクルド人の男性は「クルド人というだけで差別され(中略)未来がない」と嘆く。「イスラムの名前でぜんぜんイスラムと関係ないことを世界中でやっている」「知らない人はまとめてイスラムは悪い人と思ってしまう」。そうした声も本書は伝える。

 「実際に話をして、彼らの側からも世の中を見るようになって、イスラム像はずいぶんゆがめられてるんだろうなと思いました」。そのゆがみを本書が少しでも直すよう願いつつ、「次は、話を聞いたみんなの国に行ってみたい」と心を躍らせている。

 紀伊国屋書店・一八三六円。 (川原田喜子)

 

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