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【書く人】

楽しく暮らす哲学 『ほどほど快適生活百科』 作家・群ようこさん(63)

 北欧フィンランドでおにぎりを看板メニューに日本人女性が店を出す「かもめ食堂」、ハードワークな会社を早期退職した女性が月十万円で暮らす「れんげ荘」…。浮遊感のあるシングル女性の夢を描きながら、生活感を失わない小説を書き続けてきた群ようこさんが、衣食住など百項目で暮らしの哲学をまとめた。

 「読者の年齢層は想定しなかった」と言うものの、六十代になり「前期高齢者(六十五〜七十四歳)の準備段階に入った」と自覚する群さんの文章は、加齢を意識する世代にじわじわと効いてくる。<多少の収入増よりも時間の余裕のあるほうを選んだ><仕事も趣味も運動も食事もすべてほどほどに>

 最も共感を呼ぶのはこんなくだりではないだろうか。<だいたい、自分の寿命がわからないのが困る。わかったら、どれくらい生活費がいるかがわかり、その分だけ働けばいいのだが、手持ちのお金をどれくらい使っていいのかわからないのが、厄介なのだ>。だが群さんは、まず貯金というよりは生活を楽しむためのものは買い、仕事に関するものにお金は惜しまないという考えだ。「年を取ったときにものをいうのは、お金じゃなくて人間関係」と信じている。

 携帯電話や電子レンジは持たない。散歩や編み物が好きで「靴下を編むのが楽しい」と笑う。二十歳になる愛猫「しい」の話になると止まらない…。足ることを知り、暮らしの楽しみ方を身に付けた人なのだ。

 「本の雑誌社」を退社して専業作家となったのが三十歳のとき。書くことに執着がなく「二、三年しか続かない」と思っていたのが三十四年目に。五十代では母親の介護や自身の体調不良も経験した。著作は数えていないが百二十冊は超えたとみられ、現在も連載五本を抱える。若い愛読者には「生まれたときから家に本がありました」「おばあちゃんもファンです」と声を掛けられる。

 「私の書くものは小説の王道ではない。エッセーの王道でもない。研究者でもない。隙間で生きている人間なんです」と言い切る。四十代のころ「書いてることが古くさい」と言う人がいた。久々に読んだ人からは「全然昔と変わらない」と言われた。流行は追わない。人からどう見られようと気に留めない。それが「群印(むれじるし)」なのだ。

 集英社・一五一二円。 (矢島智子)

 

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