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【書く人】

凍える話 優しい効能 『あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続』 宮部みゆきさん(57)

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 「最初からあまりに忌まわしい話なので、新聞の読者の方からお叱りが来ていないか、担当の方に伺っていました。その都度『大丈夫です』と慰めていただきましたが、やはり『怖すぎる』という反響はあったそうで。申し訳ありません」

 怪奇もの時代小説「三島屋変調百物語(みしまやへんちょうひゃくものがたり)」シリーズとして、本紙夕刊(一部朝刊)に二〇一六年十一月から一年間連載した「あやかし草紙」を振り返ってもらうと、笑顔でおわびをされてしまった。連載の全四話に続編一話を加えた本書はシリーズ五冊目で、「第一期完結編」の節目となった。

 人気、実力ともに最高峰の作家が今「ライフワーク」と明言するこのシリーズは、江戸・神田三島町の袋物屋「三島屋」が舞台。不幸な過去から店主の叔父夫妻の元に身を寄せた娘おちかが、怪談の百物語風に、客の不思議な体験談を一話ずつ聞いていく。

 「物語の着想は、現実に起きた事件のニュースからも得ています。現代ミステリーでは生々しすぎますが、時代小説ならと」

 語り手の物語とともに、聞き手の物語が丁寧に紡がれているのが魅力だ。「おちかには物語を聞く切実な理由がありました。でも、セラピーでもあった百物語の効き目が出てきて、その必要がなくなってきた。だから今回初めて聞き手が代わります」

 人の心の奥の奥の闇をのぞき見させられて身震いする宮部版百物語。実は、とても温かく、優しい。

 事件といえば、本作にも登場する地元東京・下町の神社で昨年末起きた惨事に胸を痛めている。「いずれ物語の中で、お相撲で有名なにぎわう八幡様として書こうと思っています」

 二〇〇八年に始まったシリーズは本書で二十七話と、目標とする九十九話には遠いが「古希までには。七十歳までは引退できませんね」。話の案は「パソコンの『三島屋フォルダー』に入れてます。降りてくる、という感じです」

 昨年で作家生活三十年を迎えたが、このシリーズのために「一から文章修業を始めた」とも。「語りが単調にならないように。ようやくつかめてきました」

 優しい笑顔と声の希代の作家は今なお努力の人。あれこれ伺ううちに、本人を前に言わざるを得なかった。「一番恐ろしいのは、宮部みゆきだと思います」

 KADOKAWA・一九四四円。 (増田恵美子)

 

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