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【書く人】

強さって?性描き考える 『青春のジョーカー』作家・奥田亜希子さん(34)

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 テーマは、ずばり思春期の性欲。教室内の人間関係にいや応なく介在する性のやっかいさが、ヒリヒリした痛みとともに伝わる物語だ。おとなしく、気弱な中学三年の男子を主人公に、青春の入り口に立つ年代ならではの切実な問題を浮かび上がらせた。

 男性の体と心に切り込んでいるけれど、作者は女性。「書けるか不安もありました。でも、自分の中で答えがなんとなく見えているものでは面白くない。以前から気になっていた性のことを、ど真ん中で書くには、男子中学生が一番合っていると思って」

 描かれている学校生活の大変さは、男女問わず多くの人が思い当たるだろう。誰かを<レベルが下>と見ることで、自身の立ち位置を確保しようとする小競り合いに巻き込まれる。一方で、自分は誰からも恋愛や性の対象として受け入れられないのではという不安も、頭をもたげる。「私は教室の隅にいたので、真ん中にいる子は、無敵でハッピーなんだろうと思っていました。でも、今思えば、コンプレックスのない人間なんて、そうはいないんですよね」。作中では、ほかの登場人物が抱える悩みも、少しずつ明かされていく。

 主人公の兄は、名門とされる大学に行くことで、モテない生活から必死で抜け出そうとする。そして<セックスすればいいんだよ。セックスをすれば、一気に世界が変わる>と語る。本当に性体験は、そんなに万能な「ジョーカー」なのか。「書き進めるうちに、強さって何だろう、希望って何だろうと、あらためて考えることになりました」

 物語は、現実世界で起きているセクハラや性暴力のニュースも、連想させる展開をみせる。「性なんてなければいいのに、という気もする。でも、そちらに突き詰めても、きっといい結果は生まない。だからすごくいいものとも、すごく悪いものとも、ならないように書きました」

 今年でデビュー五年。愛知県内の大学を卒業後、フリーペーパーの制作会社をへて、作家になった。小学生の娘を育てる母でもある。「私には今の生き方を、あのころの自分に見せているような、敵討ちをしているような気持ちが、どこかにある。小中高校くらいまでに体験したことは、その後の人生に、すごく響くものなのかもしれませんね」

 集英社・一六二〇円。 (中村陽子)

 

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