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【書く人】

悩む10代に、きっかけを 『放課後ひとり同盟』 作家・小嶋陽太郎さん(26)

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 爽やかな水色の背景に、足を高く蹴りあげる女子高校生の姿が映える。ポップな表紙から想像するのは、キラキラした青春物語かもしれない。でも描かれるのは悩みもがき、時に絶望する十代五人の姿だ。

 二〇一五年に月刊誌『小説すばる』から声が掛かり、短編「空に飛び蹴り」を書いた。登場人物を少しずつ重ねながら主人公が変わる計五編を、昨夏までに発表。連作短編集にまとめたのがこの本だ。

 主人公は生き方が下手くそな高校生や大学生ら。再婚した母親と新しい家族への違和感を拭えない女子高校生に、性同一性障害に苦しむ男子高校生、小学校の同級生の面影を追いながらストーカー行為を続ける男子大学生…。周りに理解されないつらさや孤立感、不安を抱えながら、一人で考えを巡らせる。どうしてこうなっちゃったのか、どうしたらいいのか、と。

 「俺自身、器用に生きられる人は信じられないなと思っていて。道の真ん中を真っすぐ歩けない人の方が人間ぽくて好きなんです。だからこそ物語にするのでしょうね」

 ただ、どの物語も主人公を悩みの中に放ったままでは終わらせていない。劇的な解決法は示されずとも、友人やバイト先の後輩、好意を寄せる人ら他者と関わることで、方向転換や視野を広げるきっかけを見つけていく。

 例えば、認知症の祖母や不仲な両親との関係に悩む女子高校生。彼女はある日、街中で空を蹴ることで「降ってくる不幸」を防ぐという男と出会う。不安を拭うように自身も空を蹴り続ける奇行にふけるが、男の正体が分かったとき、男と決別する。「世の中そんなに不幸だらけじゃないっすよ」と言い放って。そして、現実と向き合う力を得る。

 つらいだけの物語にしなかったのは「寄り添い、理解してくれる人が彼らにもいたらいいなと思ったから。本当は絶望する必要なんてなくて、常に何か希望はあるはずだと思うんです」。

 長野県松本市に生まれ、信州大在学中の二十二歳でボイルドエッグズ新人賞を受けた。今作は八冊目となる。今年から東京に居を移したが「作中に出てくる景色は松本を想像して書いている。今も大事な場所に変わりはない」。新天地でも人間の内面に迫る物語を書き続けていく。

 集英社・一六二〇円。(世古紘子)

 

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