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【書く人】

日本の矛盾 詰め込む 『真夜中の子供』作家・辻仁成さん(58)

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 十五年前からパリに移住し、現在はシングルファーザーとして中学生の息子を育てながら執筆、音楽活動を続ける。「フランスという国から日本を見ると、さまざまな問題が浮かんでくる。移民や国籍、家族の問題、そして児童虐待。親が子を折檻(せっかん)し、死なせる事件がこれほど起きるなんて、フランスでは考えられない。これは子どもを書かなければならないと思ったんです」

 小説の舞台は福岡市の歓楽街・中洲(なかす)。那珂川(なかがわ)に浮かぶ九州最大の歓楽街で、ホストとホステスの両親を持つ蓮司(れんじ)は、ほぼネグレクトの状態で育つ。母親が出生届を出さなかったため無戸籍で、小学校にも通っていない。いつもおなかをすかせて深夜の街を徘徊(はいかい)するうち、「真夜中の子供」と呼ばれるようになる。

 蓮司は自分が中洲という土地に帰属していると思うことで、孤独を紛らせる。中洲の外側を「外国」と呼び、手書きで「中洲国」のパスポートを作る。目を背けたくなるような境遇の中、自らの居場所を必死に作ろうとする少年のけなげさが、読者の胸を打つ。

 そんな彼に、中洲で働く警官や客引き、スナックのママたちから救いの手がさしのべられる。伝統の祭り「博多祇園山笠(はかたぎおんやまかさ)」を通じ、土地に受け入れられていく。「周囲に支えられ、たくましく生きる子どもの姿を描きたかった。私たちが一人の人間を見るときには、その人に関わるさまざまな人々が織りなすタペストリーのような世界を見ているんです。だからどんな人間も独りではない」

 一九九七年刊の芥川賞受賞作『海峡の光』では、函館の刑務所という小さな箱庭に、日本を投影して描いた。今回はそれを、著者自身が幼少期を過ごした福岡の中洲を舞台にして、再び挑んでみたかったという。「この十五年で日本とフランスを比較する定規を持つことができた。この作品には今の日本の問題点や矛盾点がいっぱい入っている。フランスにいるからこそ描けた日本の物語だと思う」

 本作は映画化が決定、自身が監督も務める。そして来年は作家デビュー三十周年を迎える。「やっと作家としての翼を持つことができ、自分の世界へと離陸できそうな感じ。今が一番、筆が乗っている。ここから高いところに上っていけるようなものを、時間をかけて書いていきたい」

 河出書房新社・一七二八円。 (樋口薫)

 

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