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【書く人】

事実を曲げた、知の商品 『歴史修正主義とサブカルチャー 90年代保守言説のメディア文化』 社会学者・倉橋耕平さん(36)

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 歴史修正主義はなぜ支持されるのか。専門家らがデマだと否定し、反知性主義と突き放しても、関連本は書店の売れ筋となり、会員制交流サイト(SNS)では「ネトウヨ」的つぶやきが跋扈(ばっこ)する。誰もが問題視しながら答えが出せなかった問いの背景を、丁寧に分析した。

 愛知県蒲郡市出身で、立命館大などで非常勤講師を務める。学生時代の二〇一一年、慰安婦問題を扱ったNHKの番組改変問題を博士論文で研究。その後、在日コリアンの知人がヘイトスピーチの被害に遭う経験などを通じ、問題は身近に迫っていると実感した。

 「どうしてこんな考え方が広がるのか。彼らが考えていることは何か」。彼らには彼らなりの「知の形式」がある。ただ批判したり無視するのでなく、その仕組みに向き合おうと試みた。

 成果の一端をひもとくと−。歴史修正主義は決してネット時代の現象ではなく、一九九〇年代には仕組みがあった。ルーツの一つが「新しい歴史教科書をつくる会」。歴史の専門家ではない「アマチュア」知識人が中心を担った。右肩下がりの出版界で彼らの主張は「商品」として、論壇誌、漫画など複数のメディアを横断しながら拡散された。<「売れれば」いいという消費文化の論理で展開され、熱心な「お客様」を手放さないよう扱うなかで作られた言論>というわけだ。

 空恐ろしいのは、こうした言説が上からの押しつけではなく、それを心地良いと思う消費者がいて、双方のキャッチボールの中で強化されていった点にある。

 彼らの思考法が端的に現れているのが、やはり九〇年代に浸透したディベート。二項対立で問題を設定し、どちらに説得力があるかを競う。SNSなどで「論破」に執着する人に出くわしたことはないか。相手を言いくるめることを優先し、「事実かどうか」は後回し。だから「デマだ」という指摘は彼らの胸には刺さらない。

 その様を「彼らは私たちと全く異なる水準のゲームをしている」と喝破する。「基本的に彼らがやっているのは事実をゆがめること。それを論壇誌などのメディアを通じ、理性的な形で見せようとしているだけです。相手の土俵に乗るのではなく、君の議論のやり方はおかしいと指摘していくことが大切だと思います」

 青弓社・一七二八円。 (森本智之)

 

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