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【書く人】

言葉への違和感、探る『鏡のなかのアジア』 作家・谷崎由依さん(40)

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 アジアの土地をテーマに五つの短篇を紡いだ。チベット、九〓(きゅうふん)、京都、コーチン、クアラルンプール。それぞれの題名に、地名が添えられている。各地の風景や歴史を交えつつ展開するのは、うそかまことか分からない幻想的な物語だ。読み進めれば、まさに「鏡のなか」をのぞいているような不思議な気分になる。

 「場所から立ち上がった蜃気楼(しんきろう)みたいなイメージ。最初は、どことも分からない感じで読んでもらえればと思ってて。ただ、少し手掛かりがあった方が良いかなと地名を加えたんです」

 「Jiufenの村は九つぶん」は、九世帯しかない台湾の集落が舞台。ある日、漁労に出ていた男が家に戻ると、妻が別の男と暮らしていた。「自分は幽霊で、あの男はおれの生前の姿では」と考えた男は、遠くから観察するが…。

 「これは大好きなガルシア・マルケスのような昔話っぽい感じ。俯瞰(ふかん)している視点で書いたんです」。ほかに歴史ある僧院にこもり、写本する少年僧を描く「……そしてまた文字を記していると」や、かつては熱帯雨林の巨大樹だった男が時空を行き来しつつ語る「天蓋(てんがい)歩行」など、文体もカラーも異なる世界を創り出した。

 幻想性に加え、著者自身の言葉への疑問、違和感を基にした独特な表現も特徴だ。例えば「筆」にpen、「湖」にmtshoと日本語に英語やチベット語のルビが付き、面食らう。小説の日英翻訳も多く手掛けており、「翻訳時は頭の中で英単語と日本語を両方並べて考える。なのに日本語だけアウトプットするのはアンバランスだと思っていて」と説く。

 オノマトペは、アルファベット表記だ。<BuuKABuuKAと騒々しく打楽器管楽器を鳴らし><shito、shito、と雨が漏る>という具合。「実際に聞こえる音って単純じゃない。『ガタンと物が落ちた』という『ガタン』って、きれいな三文字の音ではないはずなのに、そう書いてしまうことへの違和感があって。アルファベットに直すと少し解体されていくのかなと」

 今作は読みやすさよりも実験性に重きを置いたという。「自分のやりたい放題、好きなことだけをしました、という本です。言葉の自明性を疑うのが楽しいような人に届いてほしいですね」

 集英社・一七二八円。(世古紘子)

 ※〓はにんべんに分

 

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