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【書く人】

才能があること 幸せか 『永遠についての証明』 作家・岩井圭也さん(31)

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 失意のなかで死んだ若き天才数学者、三ツ矢瞭司(みつやりょうじ)が残した研究ノート。そこには歴史的な未解決問題を証明する鍵が記されていた。大学時代から共に学び、彼の死に罪悪感を抱く数学者の熊沢勇一は「遺書」の解読に挑む−。

 第九回野性時代フロンティア文学賞受賞の今作でデビューした。同賞には前回も応募したが一歩届かず奨励賞。「今年こそはと気合を入れて書いた作品なので、うれしかった」と朗らかに笑う。

 数学と青春を描いた物語だ。もともと数学者の伝記が好きで「物事を突き詰めて考える生き方、純粋さやいちずさにそそられる。数学者を題材にドラマチックな小説を描きたかった」。

 熊沢の視点で現在が、瞭司の視点で学生生活や研究の日々が、交互に語られる。天才としてまばゆい輝きを放っていた瞭司が何を考え、なぜ死に至ったか。彼の語りから、他者の言動に心を揺さぶられ、周囲との違いから孤独に悩んだ、一人の人間が浮かび上がる。「自分でも少しずつ書きながら瞭司という人物への理解を深めていった。破滅の場面は心苦しかったが、納得はできた」

 才能があることは幸せかという問いが、物語の軸にある。自身は学生時代、剣道や微生物の研究に打ち込んだ。より優秀な同級生らと自分を比較して悔しい思いをしたが、一緒に過ごす中で、より才能がある人の苦しみも知った。「体調が悪くても周囲を満足させる結果を求められたり、期待に応えるために努力し続けなければならなかったり」。作中でも、才能をめぐって二人の心情が響き合う。

 小学生の頃から小説を書こうとして、何度も途中で放り出してきた。だが大学二年生の時、剣道部の遠征先で書店に立ち寄り、ふっと込み上げる思いに気づいた。「自分は書きたいんじゃなかったか」

 在学中は本を読みあさって物語を学び、就職してから本格的に執筆を始めた。早起きして出勤前に二時間ほど書く生活を六年以上続け、十本近い長篇を仕上げた。「文学賞に応募するためでもあるけど、単純に書くことが楽しかった。自分の力だけで一つの世界を作り上げられる。こんなに打ち込めるものは他にない」

 現在執筆中の二作目は剣道が題材。デビューの喜びに立ち止まらず「一作目を上回る物を」と前を向く。

 KADOKAWA・一六二〇円。 (谷口大河)

 

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