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【書く人】

分断乗り越える道を 『新復興論』 地域活動家・小松理虔(りけん)さん(38)

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 原発に反対か、賛成か。福島の魚を食べるか、避けるか−。「福島を語ろうとすると、すぐ二者択一を迫られて敵味方に分断されてしまう風潮がある」。街づくりの実践を通して、分断を乗り越える希望を食と観光、アートに見いだした。

 福島県・浜通りのいわき市小名浜で生まれ育った。働きながら地元情報のメール配信を手始めに街づくりの活動に乗りだした頃、東日本大震災に見舞われた。

 二〇一三年から、福島第一原子力発電所の沖合で希望者と一緒に魚を釣り、放射性物質を調査する「うみラボ」という活動を始めた。安全性を自ら確かめ、「なんでみんな食べてくれないんだろう、食べようとしないのは科学的じゃないって思っていました」と振り返る。

 風評被害の問題に向き合う中、福島の人と脱原発を求める県外の人との間に溝を感じるようになった。「脱原発の主張は健康被害が必要以上に強調されてきた。それは風評被害や新たな差別につながるという地元の反発を生んでしまった」

 福島の問題を当事者以外は語ってほしくない、という声も上がる。「福島について語りづらい状況が続けば、原発事故は矮小(わいしょう)化されていく」と懸念する。「いったん議論の外に出て、冷静に問題を考えられるような迂回路がいる」と考えた。

 地元の人には風評被害を嘆くより、食べ物や観光資源に磨きをかけたり、地域がテーマのアートにふれたりすることを勧める。食やアートのイベントを開いてきた経験を踏まえ、「そもそも俺たちはどうしたいんだっけ?みたいな初めの問いに戻れる」と実感を込める。「それは国に依存せず、地元で協力しながら進める復興の根っこになる」

 地域の外の人に対しては「おいしいものを食べたい、アートの催しがあるから寄ってみよう、原発をちょっと見てみたい−そんな純粋な動機でとにかく来てもらって、結果的に問題を考えるタネみたいなものを持ち帰ってほしい」と願う。

 本書は批評家の東浩紀(あずまひろき)さんが代表を務める出版社が創刊した「ゲンロン叢書(そうしょ)」の一冊目として刊行された。自身初の単著だが、「書く人よりも現場の人でいたい」と話す。「まずは僕自身が小名浜の暮らしを楽しみたい。食、観光、アートに関わっていく中で、また何か書けたらいいと思っています」。

 ゲンロン・二四八四円。 (小佐野慧太)

 

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