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【書く人】

『マーシャル、父の戦場ある日本兵の日記をめぐる歴史実践』 映画監督・大川史織(しおり)さん

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 類書を見つけるのが難しい一冊だ。四千キロの距離、七十三年の時間を超え、歴史に向き合うことの意味を問い掛けてくる。

 太平洋戦争末期、日本の委任統治領だった「南洋群島」のマーシャル諸島で、佐藤冨五郎という無名の兵士が餓死した。補給路を断たれた島でつづった日記は戦後、遺族の元へ。長男の勉さんはタクシー運転手となり、偶然乗せた大学教授に、古びた日記を解読したいと相談する。

 本書は十四年がかりで翻刻した日記を軸に、勉さんや編者となった大川さんら解読に関わった多くの人のインタビューやエッセー、歴史学者の論考で構成する。「翻刻の成果だけでは無味乾燥だと思った。どうして日記を読み解こうと思ったのか、それぞれの属人的な部分こそ知ってほしい」。副題の「歴史実践」には、そんな意味を込めている。

 日記は、食料や体調などの日常を淡々と記録する一方、「オ前達ハ 互ヒニ 信ジ合 嬉シイ事ハ 分チ合ヒ」など、家族に宛てた言葉が随所にある。「歴史は遠くに感じられがちだけど、誰かの言葉を通じれば身近になると信じている」と日記の力を語る。

 大川さんとマーシャル諸島との出合いは高校生の頃。インターネットの検索で日本統治や第五福竜丸事件などの歴史を知り、スタディーツアーに参加した。慶応大を卒業した二〇一一年から三年間、現地の建設会社で働き、日本の痕跡をテーマに撮影を続けた。一六年春に勉さんと知り合い、本書と姉妹編のドキュメンタリー映画の制作を始めた。

 大学教授の後を継いだ解読の過程では、国立公文書館アジア歴史資料センターの非常勤職員として働き始め、同僚たちと「調査会」を結成。外部の古代史研究者には赤外線カメラでの分析を依頼した。「私は素人。でも良い意味で人を巻き込むことで、貴重な資料を世に出すことができた」

 初監督映画「タリナイ」はマーシャル語で「戦争」の意味。九月末、二週間限定でアップリンク渋谷(東京)で単館上映されたが、反響を呼び、今月三十日までのロングランに。十二月一日から横浜シネマリン、来夏はシネマスコーレ(名古屋)で公開を控える。

 「マーシャルでも上映し、現地の人の感想を聞きたい」。十二月でマーシャル諸島と日本の国交樹立三十周年。両国を今後も結び続ける。みずき書林・二五九二円。 (谷岡聖史)

 

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