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【書く人】

「おとぎ話」で突く現実 『フーガはユーガ』 作家・伊坂幸太郎さん(47)

 本書の帯には「1年ぶりの新作長編」という文字。先輩作家には「新刊が一年出ないだけで、こんなふうに書かれるんだ」と半ば驚かれ、半ばほめられた。

 二〇〇〇年にデビューして、作家生活は今年で二十年目に。出すたび話題を呼ぶ本の数々は四十冊近く、平成の時代を代表する書き手の一人となった。

 書き下ろしで発表した本書は、双子の兄弟が主役。これから読む人の楽しみのために詳細は伏せるが、二人には年に一日だけ可能となる不思議で特別な能力があり、それを生かして悪に立ち向かおうとする。

 「とっぴな話を作りたくなっちゃうんですよね。作り話ならではの、楽しいものを」。その言葉通り、奇想天外な設定や張り巡らされた伏線、二重三重のどんでん返しが待つ結末と、読み手を驚かせるストーリーを生み出し続けてきた。

 だが新刊で読者を待つのは、楽しいことばかりではない。身近な大人から空恐ろしいまでの虐待を受ける子どもたちの苦境と辛酸が描かれる。父の暴力で身も心も傷つき、母にも守ってもらえない。これは間違いなく、二十一世紀のこの国に実在する現実だ。

 それを小説で告発したいわけではないという。「ぼくの場合は別に問題提起とかじゃなくて、あくまでもおとぎ話。虐待を書くことに主眼はないんです」。これまで改憲の問題点を鋭く指摘しても、少年犯罪を取り上げても、作品のメッセージではないと言い続けてきたこの人らしい。

 けれど、虐げられる子どもへの思いは、こんな文章の中にしっかりと込められているかのようだ。

 《抵抗できない者の尊厳を、足の裏の角質でも取るかのように、削り、平然としている者たちが、世の中にはいる。そのことは受け入れなくてはいけない。けれど、こちらがずっと彼らのことを我慢している必要もない》

 これはまた、強権をふるう魅力に憑(つ)かれたような為政者や、強欲資本主義を押し広める経済人のまかり通る世界で、苦しむ人に送り届けたい言葉でもある。

 この二年ほど、創作の意欲が下がっていたという。「もう何を書いても、新しい何か、新しい景色が見えることもないのかなあと思うと、非常につらくなっちゃったんですけれどね…。これを書いて、次はまた、次の山に向かっていけそうだなと思っています」

 実業之日本社・一五一二円。 (三品信)

 

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