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【書評】

叫びの都市 原口剛 著

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◆釜ケ崎の物語を追究

[評者]平井玄=批評家

 釜ケ崎(大阪市西成区あいりん地区)は遠い。ニューヨークより遠い。評者のような東京者にはまず大阪がなにやら別世界だ。漫才やヘイトスピーチがごちゃごちゃに煮込まれたかやくご飯を思わせる街。在日の人たちが住む鶴橋に大正区のリトル沖縄。そして、あべのハルカスから西へ十五分ほど行けば通天閣。そこから関西本線を越えて南に行くと日雇い労働者たちが住む「釜ケ崎」が現れる。

 東京の山谷が『あしたのジョー』の舞台なら、この街は『じゃりん子チエ』という傑作を生んだ。二つのマンガは今も多くの人たちに読まれる古典だ。半世紀で二十四回も暴動が起きた釜ケ崎。「怖い」「汚い」と言われる場所が、なぜこれほど愛される絵物語を生み出したのか?

 本書はこの疑問に答えてくれる。マンガについての本ではない。都市の変貌に歴史を読み取る批判的な地理学の成果を吸い込んで、釜ケ崎に正面から取り組んだ研究書だ。大阪港の荷役を担う船底の仲仕たちに日雇い労働者の前史を追いかけ、一九六〇年代に起きた波止場の「海のストライキ」と釜ケ崎の「陸の暴動」の同時進行を描く。その目の力がモノクロ写真とともに、「人間の物語」を深く抉(えぐ)り出すのである。非正規雇用労働が蔓延(まんえん)し、ネットを通じた募集が「釜ケ崎」をいたるところに拡散した今、この街は私たちの足元に近づいている。

(洛北出版・2592円)

 <はらぐち・たけし> 1976年生まれ。神戸大准教授。共著『都市空間の地理学』。

◆もう1冊 

 生田武志著『釜ケ崎から』(ちくま文庫)。釜ケ崎で暮らす路上生活者など社会的弱者の直面する現実を描いたルポ。

 

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