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【書評】

森は怪しいワンダーランド 田中淳夫 著

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◆文明を見通す探検記

[評者]澤宮優=ノンフィクション作家

 少年にとって探検は心ときめくロマンであり、誰もが森や洞窟に入り、川を遡(さかのぼ)って、親にこっぴどく叱られた経験があるはずだ。本書を読んで、幼いころのほろ苦い体験が懐かしくよみがえった。

 五十代後半の著者、ボルネオ島に野生のオランウータンを探しに行き、小笠原諸島の母島で巨大な鍾乳洞を発見し、パプアニューギニアの湖に幻の怪獣を探したりと、若き日からの旺盛な探検記がつづられる。その醍醐味(だいごみ)は波乱の冒険小説を読んだ感覚に似ている。失敗談も秀逸だ。富士山麓の青木ケ原樹海を横断し野犬の群れに囲まれ、山中での車中泊でラジオで怪談を聞く羽目になり、焼き畑に自ら火をつけたいと願いボルネオを訪ねるなど、何とも滑稽だがみずみずしい好奇心に喝采を送りたくなる。

 白眉は後半部の森と人との関係についての提言である。現在クマなど獣が人里を襲う事件をよく耳にする。それは奥山を開発する人間のせいなのか。そうではないと著者は言う。理由はぜひ本書を読んで、その確固たる根拠を知っていただきたい。その他、森林セラピーなど現代の風潮への著者の洞察には唸(うな)らせられる。

 何より本書全体から、自然と人とのさまざまな共生の在り方について示唆を得られるのが最大の収穫だ。優れた探検記は現代文明論として奥行きの深さを持つことを知らされた。

 (新泉社・1728円)

 <たなか・あつお> 1959年生まれ。フリージャーナリスト。著書『森林異変』など。

◆もう1冊 

 小林廉宜(やすのぶ)『森』(世界文化社)。国内外を旅して人類の共有財産である希少な自然の森を撮影した二百余点の写真集。

 

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