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【書評】

人種戦争という寓話 黄禍論とアジア主義 廣部泉 著

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◆敵対する主張の類似説く

[評者]平川祐弘=東京大名誉教授

 戦後わが国の歴史観は三種に大別される。第一は、戦争を起こした日本を断罪し、東京裁判を是とする一派。この占領軍の史観をわが国の歴史教育に植え付けたのは、米国よりも、占領政策に同調した日本の新聞・放送と左翼で、遠山茂樹ほか『昭和史』(一九五五年)がその代表作である。

 第二は、それに反発する林房雄『大東亜戦争肯定論』(六四年)などで、自存自衛の戦争だったとする。第三はそんな軍部主導の戦争の愚を認める一方で東京裁判の非も指摘する竹山道雄『昭和の精神史』(五六年)などの立場である。『竹山道雄セレクション』(藤原書店)として新版が出た同書の書評で中島岳志も、この<保守的な見方>を見直すべき時だ、と書いた。

 先の大戦の是非をめぐり、日本軍国主義を糾弾した左翼と、米国の黄人排撃や白豪主義を非難した右翼と、論議は白熱した。実は米英内部でも白人支配の功罪について意見は割れ、植民地帝国は解体を余儀なくされたが、これを英仏蘭の敗退と見る人も出た。

 『人種戦争という寓話』の廣部泉氏はこれらの敵対関係を論じ、すこぶる冷めている。「黄禍論とアジア主義は同じコインの裏表であった」とし、米国側の日本脅威論と日本側の人種差別撤廃の主張はミラーイメージの関係だったとする。満州事変後、大東亜主義が盛り上がり、日本の外交を突き動かす。そのあたりから敵対的な悪循環が熱を帯びて動きだす。既得権益を守ろうとする白人大国の側と、英米本位の秩序に挑戦する側といずれが是か。勝てないのに戦いを挑んだ側が非か。

 米国の戦争政策への人種主義の関与など、米英中蘭まで見渡した本書の分析は新鮮だ。相手が一枚上手(うわて)で、日本はしてやられた感を免れない。寓話か愚話か。双方の問題を客観的に研究することで、一方的な発言を叫ぶ者の偏見を破り、知性の誇りを取り戻すことも、後発国日本の学者のチャレンジャーとしての使命かと思われる。

 (名古屋大学出版会・5832円)

<ひろべ・いずみ> 1965年生まれ。明治大教授。著書『グルー 真の日本の友』。

◆もう1冊 

 平川祐弘著『西欧の衝撃と日本』(勉誠出版)。膨張する西洋文明の衝撃に対し、近代日本がどう対応したかを比較文化史的に考察。

 

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