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【書評】

出雲を原郷とする人たち 岡本雅享 著

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◆古代の痕跡訪ね歩く

[評者]佐藤洋二郎=作家

 日本海に沈む山陰地方の夕陽(ゆうひ)は美しく、宍道湖(しんじこ)にかかる夕焼けはとくに美しい。神が創造した景色ではないかと感じ、あたりが薄暗くなるまで見とれていたことがある。出雲はその湖と中海(なかうみ)の周辺に栄えた土地だ。日本の古代史はこの土地を抜きにしては語れない。それゆえに多くの人々が書物を残している。

 しかし本書は今までの「出雲本」とは趣が異なる。全国にある出雲という地名や神社を一つ一つ訪ね歩き、それぞれの土地の資料を読み、出雲族の足跡を調べ上げている。その地域は筑前から越前、能登、信濃、播磨、朝鮮半島にまで広がり、古代から近代まで出雲がこの国にどれだけ根を張っていたかが見えてくる。質の高い出雲文化史にもなっている。

 出雲族がこの列島で大きな力を持っていたことがうかがえるのだが、今日ではその地名の語源もはっきりしない。それどころかさまざまな説があり、多くの書かれた文字が邪魔をし、反対に歴史の闇を深くしているようだ。

 そしてその文字も大和族が書いたものだとすれば、出雲は大和によって今日の狭い土地に押し込められたのではないかという想像を誘われる。この列島と出雲の関係はもっと濃密なものだったに違いない。そういった意味でも、出雲の歴史を掘り起こすことは重要ではないか。本書を読んで、そんなことを思った。

 (藤原書店・3024円)

<おかもと・まさたか> 1967年生まれ。福岡県立大准教授、多文化社会論。

◆もう1冊 

 平野芳英著『古代出雲を歩く』(岩波新書)。国引き神話や多数の神社など、古代の息吹を伝える土地をめぐる。

 

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