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【書評】

生命(いのち)の詩人・尹東柱(ユンドンジュ) 多胡吉郎 著

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◆獄死の深い意味くむ

[評者]嶋岡晨=詩人

 はや三十余年前になる。韓国の代表的近代詩人・尹東柱(一九一七〜四五年)の全詩集『空と風と星と詩』が伊吹郷の訳で、記録社から出版されたのを手にして、われわれは深い感銘を受けた。

 本書は、尹東柱の『自筆詩稿全集』に接した多胡吉郎氏が、その読後の抑えがたい感動から筆をとったものだ。要因には、東柱の「限りある生」の自覚と詩的使命感への熱い共鳴があった。

 一九四三年夏、思想犯として逮捕・投獄され、獄中死にいたるまでの、尹東柱の生涯を−つまりは彼の思想を、詳細かつ執拗(しつよう)なデータ(ノート類や原稿下書きに及ぶ)の精確な確認作業によって検証し、真摯(しんし)に再生したのが本書である。

 尹東柱と親交があった、自称「半韓」詩人の上本正夫(うえもとまさお)への接触から獄死の真相にいたるまで、筆は細部へも柔軟にのびる。著者の告白する、頻繁な電話や図書館通い、また元(もと)稿との入念な対比などの努力と成果は、文章の随所に感知されよう。それらなくして、例えばオリジナル稿にふと記された落書きめいた一語(病院)から「mortal」な生の自覚や使命を読みとり、獄死の深い意味を掴(つか)み取る技(わざ)も、ありえなかった。ふんだんに収録された写真も、じつに興味深い。

 今年は、尹東柱の生誕百年である。長い年月を費やした多胡氏の研究に、そして東柱詩の世界に、注目してほしい。

 (影書房・2052円)

<たご・きちろう> 1956年生まれ。作家。著書『吾輩はロンドンである』など。

◆もう1冊 

 尹東柱詩集『空と風と星と詩』(金時鐘(キムシジョン)編訳・岩波文庫)。戦後出版された表題詩集などから計六十六篇を選んで訳出。

 

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