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【書評】

殺人の人類史(上)(下) コリン・ウィルソン&デイモン・ウィルソン 著

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◆形を変える暴力をたどる

[評者]田中聡=作家

 コリン・ウィルソンは一九五六年に『アウトサイダー』でデビューし、文学、哲学、心理学、犯罪学、オカルトなど幅広いジャンルで健筆をふるった。アカデミズムからは軽視されても、ときに「二十世紀最大の思想家」と評されるほど影響力は大きかった。とくにサブカルチャーに与えた影響は絶大だろう。主題はつねに、拡充しようとする精神の探求にあった。自己拡充の強い欲求を持つアウトサイダーは、創造的になれないと虚無感や憎悪に囚(とら)われやすい。快楽殺人者は創造性を欠いたアウトサイダーだ。その実存の暗黒を研究するのが彼の犯罪学だった。

 本書は、コリンが執筆中に亡くなったため、息子の作家、デイモンが遺稿の前後に章を加えている。ただの補筆ではない。デイモンは、父のシリアル・キラー論を、人類の暴力史のなかに置いたのである。父子は問う。この数十年、世界中で殺人事件が減少し続けているのはなぜか? 人類はやがて暴力なき世界を迎えられるのか? デイモンは、ヒトが進化の過程でいかに暴力性を身につけたかを考え、さらに暴力の諸相、たとえば人喰(く)い、戦争、魔女狩り、奴隷制、賃金奴隷、今日のカニバリズム的な経済のあり方まで、膨大な事例を検討し、父の遺稿により奥行きを与えることに成功した。

 繰り返し殺人を犯すシリアル・キラーは、他者への共感を欠き、現在の快のみを求めて未来や過去を考えない社会病質者だという。後悔や反省もない。だが、連続殺人者の犯罪件数も九○年代から減り続けている。デイモンは考えられる減少の要因をさまざま挙げるが、その一方で「実業界や政界のトップの人間の多くが社会病質者なのではないか」「指導的地位にいる少数の有力な社会病質者が制度全体の倫理を破壊したのかもしれない」という疑念をも記す。現状を見渡せば、頷(うなず)くしかないのではなかろうか。連続殺人の減少は、暴力行使の形が変わった結果にすぎない可能性もあるということだ。

 (松田和也訳、青土社・(上)3456円(下)3240円)

<Colin Wilson> 1931〜2013年。英国の作家。Damon Wilson 作家。

◆もう1冊 

 コリン・ウィルソン著『アウトサイダー』(上)(下)(中村保男訳・中公文庫)。秩序の外で生きた作家や思想家から現代人の病を探る。

 

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