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【書評】

相模原障害者殺傷事件 立岩真也・杉田俊介 著

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◆心の悪と制度を問う

[評者]佐藤幹夫=批評家

 事件後、多くの論評がメディアに溢(あふ)れた。障害者差別、優生思想、ナチズム、ヘイトクライム、平等な命。どれも未(いま)だ大問題ではあるが、著者の立岩真也が「ヒトラーなどを持ち出して、『とんでもない』と言えばおしまい、にはならない」と書いているように、本当は考え続けることが難しい主題である。

 なぜおしまいにならないか。何が難しいのか。そのことが得心できなければ、この事件と、加害者が残した毒や悪意の底には触れることはできない。それが、著者たちに共有されている前提である。

 杉田俊介はニート、フリーターなどをテーマに、時に挑発的な言葉を発してきた批評家だが、本書ではそれが抑制されていると感じる。なぜか。杉田は優生やヘイトの毒をもろに浴び、賛同する層に向けて語ることを自らに課した。つまり、事件の加害当事者に内在していく主題を引き受けたからだと思えた。

 立岩はどうか。「考えること」そのもののような彼の文体は簡単には読み進めさせないが、論点は三つ。精神医療は何をなし、何をなすべきでないか。「障害者」はどう遇され、どんなことを訴えてきたか。これから事件の何を、どう考えていけばよいのか。言わば事件に内在する主題(杉田)と、歴史や社会制度などの外在する主題(立岩)が、まずは本書によって示されたのだと思う。

 (青土社・1944円)

<たていわ・しんや> 立命館大教授。

<すぎた・しゅんすけ> 批評家。

◆もう1冊 

 藤井克徳ほか著『生きたかった』(大月書店)。精神医学など多様な視点から相模原障害者殺傷事件が問うものを探る。

 

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