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【書評】

福祉政治史 格差に抗するデモクラシー 田中拓道 著

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◆社会運動を組み込む仏国

[評者]根井雅弘=京都大教授

 本書は、第二次世界大戦後から今日に至るまでの欧米と日本の福祉国家の形成・変容過程を、政治学・経済学・社会学の成果を駆使しながらまとめた「福祉政治史」である。

 欧米は一括りにはできないほど多様である。英米は確かに一九八〇年代以降、新自由主義的政策が採られたという共通点はあるが、細かく見れば、「金融主導型レジーム」が確立したアメリカに対して、イギリスでは労働党政権の下で「人への投資」や「ワークフェア」(選別的な所得補助の意味だが、公的福祉に依存していた人びとが自ら労働市場で働くことを条件とする)が拡大したという違いがある。

 また、戦後長いあいだ福祉国家やコーポラティズム(労使の代表が政府の委員会に入り、協調して政策を決める仕組み)の優等生のように呼ばれたスウェーデンでは、英米のような新自由主義的な政策こそ採られなかったが、市場を中心にした「選択の自由」に重きを置く穏健党と、子供・女性・失業層への投資を通じて「自由選択」の幅を拡大しようとする社民党との対立が目立つようになった。しかも、移民排除を掲げる第三勢力が伸長しつつある動きさえあるという。

 日本の現状への示唆は、仏独の比較から与えられるかもしれない。ドイツは、今世紀に入ってトップダウン型の意思決定により積極的労働市場政策への支出を削減し、就労支援よりはワークフェア政策を採用したが、それに対して、フランスは、アウトサイダーを支援する社会運動を意思決定過程に組み込み、「社会的・職業的参入」を推進した。著者はこれを「政治的機会構造の開放化」と呼んでいるが、この部分は本書の白眉である。

 著者は日本がどの道に進むべきかについて明確に述べてはいないが、欧米の「福祉政治史」から学ぶべきことはいまだに多い。これほど大きなテーマをコンパクトにまとめた著者の力量に賛辞を贈りたい。

(勁草書房・3240円)

<たなか・たくじ> 1971年生まれ。一橋大教授。著書『よい社会の探求』など。

◆もう1冊 

 齋藤純一著『不平等を考える』(ちくま新書)。平等な関係とは何かを問い、現在の不平等を克服するためにどうしたらよいかを探る。

 

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