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【書評】

人はこうして「食べる」を学ぶ ビー・ウィルソン 著

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◆空腹を満たす自明の重み

[評者]三砂ちづる=津田塾大教授

 驚きに満ちたみずみずしい本である。まず、フードジャーナリストと称する著者の存在に驚く。歴史学の学位をもちケンブリッジ大学で研究していた政治思想史学者が、その研究手法を駆使して、文献を綿密に調べ、膨大な参考文献リストをつけて、「食」を議論する。魅力的で軽妙な文体は学術書スタイルのこの本をさらりと読ませてしまう。翻訳も素晴らしい。摂食障害や食の難しさを抱える人が増える今、あらゆる意味での具体的な対処についての最前線を見せてくれる。

 二つ目の驚きは、「西洋社会」はそれほどまでに精製糖質と脂肪との付き合い方や子どもの食事について悩んでいるのかということである。まともに食べることと向き合うために大切なことは「決まった食事時間を取ること」、「自分自身の満腹感、空腹感に注意して料理の量に惑わされないこと」、「さまざまな食べ物を積極的に試すこと」、「空腹ではない時には食べないようにすること」と言われても、そんな当たり前のことを、なぜ今更言わねばならないのか、日本語でこの文章を読むあなたにはわからないかもしれない。この本を読んで多くの日本人がそんなふうに感じるであろうことそのものが、次の三つ目の驚きにつながる。

 いくら食が乱れてきているとはいえ、日本人の食習慣はどうやら、著者にとって理想的なことらしい。イギリスで育ち、暮らし、仕事をしている著者が描く食の問題の「悩み」への対処方法は、翻って、いかに日本に住む私たちが「別に悩むことなく」身につけていたことか、を知ることになる。褒められているのは、よく言われる「日本伝統食の素晴らしさ」などではなく、「柔軟に食習慣を変えてきた」から、というのが三つ目の驚くべき指摘だ。

 いったい、どういうことだろうか。自らを客観的に見ることは、より良き現実への対処と、起こり始めている問題の解決につながる。著者の鋭い指摘の詳細に、ぜひふれてみてほしい。

 (堤理華訳、原書房・3024円)

<Bee Wilson> フードジャーナリスト・歴史学者。著書『キッチンの歴史』など。

◆もう1冊 

 M・モス著『フードトラップ』(本間徳子訳・日経BP社)。食品企業の加工食品に仕掛けられた糖分や塩分の味の欺瞞(ぎまん)を暴く。

 

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