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【書評】

スウィングしなけりゃ意味がない 佐藤亜紀 著

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◆非政治性を貫く格好よさ

[評者]須賀しのぶ=作家

 格好いい。主人公たちが頻繁に口にする言葉こそが、この小説の心臓だ。

 ナチス時代、若者による抵抗運動はいくつかあるが、この小説の題材となっているスウィングボーイズは、他の組織とは明確に異なる一面を持っている。定番のビラ配りや、ナチスの青年組織であるヒトラー・ユーゲントへの抵抗といった積極的な運動は一切しない。彼らはただ、ナチスに頽廃(たいはい)音楽の烙印(らくいん)を押されたジャズに熱狂しているだけだ。理由はただ「格好いい」から。一方で、ナチスと彼らが押しつけるものはダサさの極みだと忌み嫌う。

 スウィングボーイズの多くは、いわゆる良家の不良少年だ。主人公エディも特権を享受した悪ガキだが、同じくジャズを愛し、理解する者ならば、ユダヤ人もユーゲントのスパイもあっさりと迎えいれる。

 戦争が激化し、ジャズが禁じられ、生活からあらゆるものが失われていっても、それは変わらない。知恵を絞り、ユダヤ人の友人らとともに海賊版のレコードをつくって売りさばくあたりは痛快で、一貫した姿勢がまさに格好いい。この軽やかさは政治に無関心だからこそとも言えるが、無関心を貫くことにも彼らの意志がある。仲間が反ナチのビラを配ろうとするのを止めようとして、エディはこう言っている。

 「これさ、ユーゲントとどこが違うんだ。なんで一々青年が先頭に立って旗を掲げなきゃならないんだ。ドイツよ目覚めよ、かい? いっぺん目覚めた挙句(あげく)こうなってるんだろ?」

 ナチスは、憎悪と闘争で拡大した。彼らを憎み、戦うことに意味を見いだそうとする者もまた、同じ道を辿(たど)りかねないことを彼は知っているのだ。

 押しつけられた、イケてない価値観に踊らされることなく、自ら選びとったスウィングジャズで最後まで踊り続ける。その姿は、あの時代におそろしいほど似てきた現代に生きる我々に、格好いいとはどういうことかを教えてくれる。

 (KADOKAWA・1944円)

 <さとう・あき> 1962年生まれ。作家。著書『天使』『ミノタウロス』など。

◆もう1冊 

 J・A・グライムズ著『希望のヴァイオリン』(宇丹貴代実訳・白水社)。楽器とともにホロコーストを生き抜いた演奏家たち。

 

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