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【書評】

あとは野となれ大和撫子 宮内悠介 著

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◆国際政治へ読者誘う

[評者]杉田俊介=批評家

 中央アジアのアラルスタンという架空の国。そこではかつての後宮(ハレム)が、家族や居場所を失った少女たちの高等教育の場になっていた。そんな砂漠の小国に大統領暗殺事件が起こる。民たちが混乱に陥る中、ODA開発で赴任中の両親を紛争で亡くした日本人少女ナツキ、ハレムのリーダー格のアイシャなど、うら若い女性たちが中心となって臨時政府を立ち上げ、「国家をやってみる」ことになる。

 伊藤計劃(けいかく)や冲方丁(うぶかたとう)以降の作家としての宮内悠介は、内戦・テロ・宗教対立などが複雑に絡みあう国際政治のリアリティーと、ポストヒューマンSFやキャラクター文化の想像力を結び付け、しかもそれを「日本人」の足元へと切り返してきた。

 アジアやイスラム、ロシアなどの文化や民族が沸騰しつつハイブリッド(交雑種)化していく砂漠の地で、ナース服やミリタリー、ユーラシア遊牧民の衣装を身にまとったコスプレ少女たちが立ち上がり、国家を守るために奮闘する。そんなオタク的なイマジネーションの享楽によって、本作は国際政治の渦中へと「日本人」の読者たちを一挙に引きずり込んでいく。その力技には、現実を都合よく消費しかねない危うさがある。しかしまさにその危険な臨界領域からあふれる享楽ゆえに、本作はじつに宮内らしい政治的娯楽作品になっている。

(KADOKAWA・1728円)

<みやうち・ゆうすけ> 1979年生まれ。作家。今年『カブールの園』で三島賞。

◆もう1冊 

 森薫著『乙嫁語り』(KADOKAWA)。十九世紀後半の中央アジアを舞台にした結婚をめぐるマンガ。既刊九巻。

 

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