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【書評】

「男はつらいよ」を旅する 川本三郎 著

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◆土地、人の記憶を縦断

[評者]佐藤利明=娯楽映画研究家

 映画のロケ地を旅する。映画ファンにとってこれほど楽しいことはない。川本三郎は「銀幕の東京」などでロケ地を訪ねた。映画に記録された空間の現在に佇(たたず)み、往時に想(おも)いを馳(は)せる。これぞタイムトラベルの喜びである。映画を語ることは作品論だけでないことを教えてくれた。

 これは「男はつらいよ」の寅(とら)さんの旅の足跡を訪ねた紀行文である。昭和四十四(一九六九)年、第一作の時、川本は葛飾柴又のことを知らなかった。東京の東にある柴又は、映画のヒットで<寅さんの故郷>として全国区となった。シリーズ初期にはSLが登場するが、山田洋次監督は失われていくものへの愛惜を込めて活写していたのだ。本書はそうした視点で映画と時代を縦断していく。

 映画に記録された風景を訪ね、土地の人々の記憶を尋ねる。変わりゆく風景と、そこで暮らす人々の変わらない思い。さらに浅丘ルリ子たちマドンナと寅さんの日々や、作品のあれこれと時代背景がディテール豊かに描写される。ファンなら膝を打つことしきり。

 今、寅さんの旅をすることは、失われた時代へのタイムトラベルでもあるのだ。「男はつらいよ」には、役者・渥美清の佇まい、山田監督の眼差(まなざ)し、監督が愛してやまないローカル鉄道の魅力、寅さんが生きた時代が「動態保存」されていることに、改めて気づかされる。

(新潮選書・1512円)

<かわもと・さぶろう> 1944年生まれ。評論家。著書『荷風と東京』など。

◆もう1冊 

 小林信彦著『おかしな男 渥美清』(ちくま文庫)。「寅さん」になる前の、コメディアンの若き日を描いた交遊録。

 

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