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【書評】

アダム・スミス 競争と共感、そして自由な社会へ 高哲男 著

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◆人の感情の歪み見つめる

[評者]服部茂幸=同志社大教授

 本書はアダム・スミス(一七二三〜九〇年)の主著『国富論』と『道徳感情論』の入門書である。

 『国富論』で描かれた自由放任の商業社会は、理想的な社会である。反面、現実の社会における資本家の独占的な行動に対して、スミスが厳しかったことは、本書を読めば分かる。

 市場の自由を唱えながら、自己の事業に有利な制度を作るべく政府に働きかけるという話は、今でもよくあることであろう。しかし、資本家と独占への批判も、スミスの自由放任の経済学の理論的な帰結である。

 もっとも、自由放任の経済においても、政府のやるべき仕事は存在する。現代の経済に不可欠な株式会社は、政府が作った法に基づく「法人」である。この株式会社を一定の条件の下でスミスが容認していたことも、本書は指摘する。

 他方、『道徳感情論』においてスミスは、人間には他者に対する共感が生来の感覚として備わっていると論じていた。この共感が道徳感情の基礎となり、個々人の行動を自制させるのである。『道徳感情論』は人間の心の中に道徳感情がどのように形成されるかを論じたものであって、ある理想が道徳、正義として断定的に論じたものではないと本書は指摘する。

 けれども、この共感の感覚にも歪(ゆが)みがあることにスミスが気づいていることも、本書が書く通りである。

 実際、人間には富者と権力者を称賛する傾向があると、『道徳感情論』は論じていた。すると、共感によって、個々人が行動する社会も、共感の歪みそれ自身によって、理想的な社会にはならないはずである。

 市場も、政府も、共感も、よい社会のためには不可欠なものではあるが、いずれも万能ではない。だから、長所を利用すると同時に、その欠陥を是正する必要があろう。こうした態度において、スミスは現代のリベラルの祖でもあると言えよう。

(講談社選書メチエ・1890円)

<たか・てつお> 1947年生まれ。九州産業大教授。著書『ヴェブレン研究』など。

◆もう1冊 

 G・A・アカロフ&R・J・シラー著『不道徳な見えざる手』(山形浩生訳・東洋経済新報社)。市場の「見えざる手」への過信に警告。

 

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