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【書評】

JAに何ができるのか 奥野長衛・佐藤優 著 

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◆飢えさせぬ国家観の欠如

[評者]大原悦子=ジャーナリスト

 農協の中心組織である全国農業協同組合中央会(JA全中)の奥野長衛会長が、農業への思いや課題などを作家の佐藤優氏と語りあう対談本である。

 いまや日本の農業人口は二十年前の半分。農家の高齢化は進み、耕作放棄地の面積は富山県とほぼ同じという。外からはグローバリゼーションの大波が押し寄せる。変革の時代に、協同組合の「共助」の精神がなぜ必要なのか。ITやAIは日本の農業にどう役立てられるのか。新自由主義時代の「勝つ農業」のあり方など、二人の話は多岐にわたる。しかし、どんなにITや技術が進歩しても、「太陽」と「水」と「土」は人間の力ではつくりだせない。それが農業の宿命であり、自然との共存を無視した極度な合理化には、両氏とも警鐘を鳴らす。

 「農業から日本を立て直す」という最終章では、子どもの貧困や食品ロス、食の安全の問題なども話題に上る。世界中で食料を廃棄し続ければ、そのうち食料を輸入できなくなる時代が来るのではないか、と佐藤氏が投げかけると、奥野会長はオーストラリアの農業大臣の言葉を紹介する。「われわれの最終的な本当の目的とは、自国民を絶対に飢えさせないこと。そのためにはあらゆる手段を尽くします」。中国でも、二年分の食糧を備蓄する施設をいま大急ぎでつくっているという。日本にはそのような発想がないということなのか、と愕然(がくぜん)とする。食料自給率が先進国のなかで最低水準にある日本こそ、安全な食べ物を将来にわたって十分保障し、国民を「飢えさせない」ことが何よりも重要であるはずなのに。

 農業の問題を語るには「国家をどういう視点で捉えるか」というしっかりとした国家論が必要だ、と奥野会長は説く。政府・与党が主導するいまの日本の農業改革には、果たしてどのような国家論、歴史観があるのだろう。農業を担う人だけでなく、私たち「食べる人」も、農業や農政の行方に無知・無関心ではいられない。

(新潮社・1296円)

<おくの・ちょうえ> JA全中会長(8月に退任予定)。さとう・まさる 作家。

◆もう1冊 

 高野誠鮮・木村秋則著『日本農業再生論』(講談社)。「ローマ法王に米を食べさせた男」と「奇跡のリンゴ」を作った男が農業を語る。

 

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