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【書評】

長編マンガの先駆者たち 小野耕世 著

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◆戦後の複雑な流れ 伝える

[評者]清水勲=漫画・諷刺画研究家

 著者は私と同じ昭和十四(一九三九)年生まれで共に東京育ち。少年期の長編マンガ読書体験をもとに、作品のマンガ史的意味と作家に対する思い入れを語っている。とくに著者が昭和二十年代前半における長編子どもマンガのリアルタイム読者であったことは、戦後マンガ創成期の複雑な実像を若い世代に伝える意味を持っている。

 著者の父・小野佐世男(させお)は漫画家・挿絵画家だったから献本・献誌がおびただしく、普通の家庭よりマンガを見ることに恵まれていたようだ。なかでも著者は雑誌マンガを豊富に読める環境にあったように思える。たとえば、本書の松下井知夫は、当時の私はほとんど見たことのない作家であった。逆に謝花凡太郎(しゃかぼんたろう)は私の好きな作家だったが、本書では触れていない

 共に熱中したのは横井福次郎だろう。三章分も使って熱く語っている。代表作は「ふしぎな国のプッチャー」「冒険ターザン」など。マンガに「カッコ良さ」があり、超人気となった。昭和二十三年末、三十六歳で早世したとき「七十社以上の出版社と仕事をしていた」という。手塚治虫が脚光を浴びる直前、最も輝いていた人であった。

 本書でちょっとわかりにくいのは、「長編子どもマンガ」と「長編大衆マンガ」の流れである。前者のスタートは大正六(一九一七)年、岡本一平が児童雑誌『良友』に連載した「珍助絵物語」。それを継いだのが、弟子の宮尾しげを(「団子串助漫遊記」など)であり、「のらくろ」に代表される講談社マンガ、「火星探険」に代表されるナカムラマンガである。「長編大衆マンガ」は大正七年の近藤浩一路「漫画坊っちゃん」(新潮社)からスタート、岡本一平「人の一生」(『婦女界』大正十三〜昭和四年連載)を経て、「現代連続漫画全集」につながる。

 長編マンガが活動写真、映画(トーキー)、アニメと共に二十世紀の一大エンターテインメントになっていく出発点を、本書は詳細に紹介している。

(岩波書店 ・ 3672円)

<おの・こうせい> 漫画評論家。著書『アメリカン・コミックス大全』など。

◆もう1冊 

 四方田犬彦著『漫画のすごい思想』(潮出版社)。佐々木マキ、岡田史子、つげ義春、タイガー立石らの漫画が何を訴えてきたかを探る。

 

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