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【書評】

田中陽造著作集 人外魔境篇

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◆異能の映画人に迫る

[評者]浦崎浩實=映画評論家

 周到に編集・造本された脚本家の著書である。四センチもあるツカ(厚み)の背表紙には書名が右寄りにいびつに記され、書店の棚で埋没するのは覚悟の上?

 白いカバーに添えられた小村雪岱(せったい)の絵(泉鏡花の本の挿絵)も謎解きめくし、本体表装は漆黒に川上りするチョキ船が白抜きで描かれている。いずれも本文と対応して、俗見を拒むような風情だ。

 果たして、長短のエッセイ・批評の数々は七章立てになって、眼目の“人外魔境”に向けテンションを上げていく配列で、いかにも脚本家らしい構成。

 “魔境”へのトレーニング(!)部分に、自作解説があり、付き合いのあった映画人の追悼文があり、自作以外の批評もわずかにあるが、そこでの慎(つつ)ましやかな自己表明は胸を熱くさせる。シナリオとは文章を消すこと、自分にはなにも無い、とご当人。おそらく、自分を無にすることを指すと思われるが、自我とか自己追究とかの現代人の病と無縁でありたい、と拝察した。

 つまり、田中陽造は反近代的作家であり、本書中の異能者(あるいは異端者)を取り上げる筆致は、同化せんばかりの迫真性で読者を圧倒する。死刑囚の教誨師(きょうかいし)が著者に言う、「アナタも私もいつ死刑囚になるかわかりませんよ」と。

 我らニンゲンについての知見あふれる濃密な書物である。

(文遊社・3564円)

<たなか・ようぞう> 1939年生まれ。脚本家。主な作品に「陽炎座」など。

◆もう1冊

 小沼勝著『わが人生 わが日活ロマンポルノ』(国書刊行会)。監督として日活ロマンポルノに捧(ささ)げた映画人生を語る。

 

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