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【書評】

戦禍に生きた演劇人たち 堀川惠子 著

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◆移動劇団に待ち受けた悲劇

[評者]成田龍一=日本女子大教授

 「新劇」という演劇ジャンルも、アングラの芝居、若手の小劇団が出てきたいまは老舗となっているが、明治後半期に旗揚げしたときには、歌舞伎など「旧劇」に対抗し、あたらしい理念を持つ運動であった。その新劇の動きを、一九二〇年代半ば、土方与志(ひじかたよし)の築地小劇場に集った群像を描くところが本書の序幕となる。主役を張るのは名優とうたわれた丸山定夫、そして演出家となる八田元夫。また、あわせて多彩な俳優たちが折に触れ、配される。

 当初こそ(丸山を除き)恵まれた子弟の活動であったが、すぐに小劇場の経営が悪化し、生活が困窮する。おりからの社会運動の興隆に共振し、演劇活動も急進化し「イデオロギーの嵐」が巻き起こる一方、作品の検閲、さらには劇団員の逮捕、拷問などの弾圧が始まり、演劇活動は苦難に直面する。とくに戦争の時期には多くの劇団が解散させられ、残る劇団も大政翼賛会に組み込まれ、移動演劇隊となってゆく。しかし、こうしたなかでも丸山は、園井惠子らと苦楽座(のちの桜隊)を結成、時局に沿う国策演目とともに三好十郎らの作品を上演し、演劇活動を継続する。工場や農村で、なおも人びとに感動を与える様子が描かれる。

 大きな節目は、広島へ疎開し、あらたな拠点を有することになった桜隊が被爆したことである。丸山、園井らは、苦しみながら放射線のために死んでいくが、八田がその死を見届けるさまが迫力ある筆で記される。

 著者はこれまでノンフィクションの領域で、ひとつの主題(原爆や死刑)に著作を積み上げ、重ね書きするようにしてきている。本書は、新劇を入り口とした原爆への接近ということになろう。たんねんな取材と調査、文献の渉猟(しょうりょう)によって叙述に厚みがあり、戦禍に至る新劇人たちの情熱と活動がよくうかがえる一書となっている。ただ、主役級の人物が入れ代わり立ち代わり登場することとなり、焦点が揺れ動くことが惜しまれる。

(講談社・1944円)

<ほりかわ・けいこ> 1969年生まれ。ジャーナリスト。『原爆供養塔』など。

◆もう1冊

 大田昌秀編著『沖縄鉄血勤皇隊』(高文研)。沖縄戦に動員された十二校の男子学徒隊が、米軍上陸以来いかに闘ったかを記録。

 

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