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【書評】

息子と狩猟に 服部文祥 著

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◆命の意味、骨太に描く

[評者]池上冬樹=文芸評論家

 登山家でノンフィクション作家の小説デビュー作だ。二篇収録されている。

 まず「息子と狩猟に」は、振り込め詐欺グループを率いる加藤と、山登りと狩猟が好きなサラリーマン倉内の話が並行して進む。加藤は金主に騙(だま)されて暴走し、倉内は息子と一緒に奥秩父で狩猟をする。二つの話は後半交錯して、命を狩ることの意味を突き詰めることになる。

 登山と狩猟の第一人者なので、知識と体験は豊富である。特に獣の解体の場面などは圧倒的迫力で、血の臭いが伝わってくるほど。ただ「新潮」に掲載されたわりには文体がやや甘く説明的で、主題把握よりもストーリー展開に重きを置いている。もっと長さの必要な物語だ。

 同時収録されている「K2」は、カラコルム山脈にある山・K2にアタックする登山小説で、生死をさまよう極限状況を描く。実質こちらが最初に書かれた小説で、余分な場面を省いて、命の連鎖を感得するまでを緻密に捉えていて悪くない。ただし会話も独白も、主題把握よりも物語の進行に寄与するきらいがある。

 掲載誌が「小説新潮」ではなく「新潮」なので、純文学の枠におさめようとしているけれど、おさまりきれない物語とドラマの片鱗(へんりん)がある。「小説新潮」でエンターテインメント作家の素質を開花させるべきなのではないか。骨太の物語作家として期待できる才能の煌(きらめ)きがある。

 (新潮社・1728円)

 <はっとり・ぶんしょう> 1969年生まれ。登山家。著書『サバイバル登山家』など。

◆もう1冊 

 服部文祥編『狩猟文学マスターピース』(みすず書房)。サバイバル登山家が選んだ宮沢賢治、津本陽などの11作品。

 

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