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【書評】

戦争がつくった現代の食卓 アナスタシア・マークス・デ・サルセド 著

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◆保存や調理に威力、安全は

[評者]藤原辰史=農業史研究者

 米国ボストン郊外にあるネイティック研究所。厳重な秘密管理のもと、陸軍の戦場の食糧配給戦略を担う施設である。フードライターのサルセドが、ここを訪れ、戦時に兵士に配給される食事(レーション)を試食するシーンから本書は始まる。マグネシウムと塩と鉄と水の化学反応を利用して温めるハンバーグ、さくさくしたチューブ状のクラッカー生地のなかに濃厚なプロセスチーズが詰まっているコンボスクラッカー、三年間常温保存可能なサンドイッチ、エナジーバー。料理好きの彼女の反応は良好である。本書は、ここにいたるレーションの科学と技術の歴史を、古代からイラク戦争まで、もっぱら米国の二十世紀を中心に描く。

 ナポレオン戦争期の缶詰の開発はもはや常識だろう。問題はそのあとの展開である。宇宙食になったフリーズドライの保存食、骨から外したカット肉、くず肉を整形した肉やソーセージ、休眠イーストと防腐剤を用いた老化しないパン、ドッグフードから転用された「中間水分製品」、高温と長期保存に耐えられるプロセスチーズ、微生物の働きを多角的におさえるハードルテクノロジー、シリアルやチョコレートを固めたバーなど、スーパーやコンビニでお目にかかるこれらの食品はすべて軍との浅からぬ関係を持っている。

 こんな軍産学協同による食のデュアルユースの産物を、サルセドは、女性を台所から解放するものとしては幾分積極的に、子どもの健康を阻害する可能性については心配を隠すことなく、これでもかと怒濤(どとう)のごとく紹介しつづける。また、冷蔵冷凍、除菌、電子レンジ、高圧加工、放射線殺菌、包装材の発展とゴミの焼却などの保存・調理・廃棄の技術の展開も見逃せない。

 レーションは、戦場から家庭に進出を果たした。陸軍は「食事」の概念を完全に崩そうとしている、とサルセドは言う。戦場が日常を覆うなかで、それでも食とは何かを考える人々の一助となる書物である。

 (田沢恭子訳、白揚社・2808円)

 Anastacia Marx de Salcedo 米国のフードライター。

◆もう1冊 

 遠藤雅司著『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』(柏書房)。最古のパンからヴェルサイユ宮殿の晩餐(ばんさん)など五千年の料理を紹介。

 

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