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【書評】

江戸・明治 百姓たちの山争い裁判 渡辺尚志 著

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◆資源巡り江戸へ出訴

[評者]渡邊大門=歴史学者

 本書は江戸時代から明治にかけて村々が訴訟を起こした山争いに焦点を絞り、その実態を解明したものである。その事例は実に豊富である。江戸時代の百姓にとって、山林資源の確保は重要な問題だった。燃料(炭や薪)、建築資材、肥料、食料などが、山林から得られた。それゆえ、山林には入会(いりあい)権が設定され、村々で共同利用されたのである。もし無断で山林資源を持ち出した場合は、厳しい処罰が科せられたほどだ。

 村にとって山林が使用できるか否かは死活問題で、ときに命を懸けて村と村が戦うこともあった。そのため村同士でその使用などをめぐって訴訟が提起され、ついには多大な費用をかけて江戸まで越訴することもあった。出羽国山口村の名主・伊藤義左衛門が江戸へ訴訟に赴いた事例は、興味深い記録が残されている。

 明治維新以降は、官林の使用が制限され、村の人々は新たな裁判闘争へと突入する。提出された証拠書類は、江戸時代の訴訟経過を示す古文書で、山林争いは長期間にわたる問題でもあった。

 このほか著者は、山林の環境問題、村における格差社会の拡大、山林がもたらす豊かな収入源などにも目配りし、丹念に村の生活を紹介している。本文は史料を現代語に訳し、平易な文章で綴(つづ)られ、非常にわかりやすい。江戸時代の入門書としても、ぜひ一読をお薦めしたい。

 (草思社・1944円)

<わたなべ・たかし> 1957年生まれ。一橋大教授。著書『百姓の力』など。

◆もう1冊 

 渡辺尚志著『百姓たちの水資源戦争』(草思社)。江戸時代の用水・治水の知恵や水争いの実態を古文書をもとに解説。

 

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