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【書評】

戸籍と無戸籍 「日本人」の輪郭 遠藤正敬 著

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◆国民管理の不条理を指摘

[評者]礫川(こいしかわ)全次=在野史家

 「戸籍と無戸籍」−魅力的なタイトルである。もちろん内容も、ユニークにして魅力的だ。「無戸籍」という存在、それが生じる理由・背景を徹底的に考究することによって、日本の戸籍制度の本質や問題点を鮮やかに浮かび上がらせている。

 戸籍という言葉はよく耳にするが、その実態は意外と知られていない。戸籍謄本、戸籍抄本なるものを見たこともない人も多いと思う。一方で、夫婦別姓を支持し、旧姓で生活している人が郵便局で旧姓宛の書留を受け取る場合、戸籍抄本が必要になるという話もある。また、民進党代表の「二重国籍」問題、横綱・白鵬の日本国籍取得問題などを通じて、日本の戸籍制度が注目を集めている。

 本書の出版は、まことに時宜を得たものと言える。「あとがき」によれば、著者は「支配する側」に立って、つまり戸籍制度を維持しようとする「官」の立場に立って、本書を書き進めたという。

 近代日本における戸籍制度の最大の問題点は、戸籍が国籍ないし「日本人」(民族・血統)であることと不可分に結びついていることである。さらには、「臣民簿」としての性格、「家」制度、男子の優位などにも大きな問題がある。これらについての指摘は、同じ著者による『戸籍と国籍の近現代史』(明石書店、二〇一三年)のほうが明快かもしれない。

 だが本書は、「無国籍」という切り口を用い、また「官」の立場に立って記述したことにより、戸籍制度という「国民管理制度」の不条理さを生々しく描き出すことに成功した。刺激と問題提起に富む労作である。

 最後に、無いものねだりをひとつ。比較対照のために、ナチ政権がユダヤ人から「公民」としての地位を奪った「ライヒ公民法」「ドイツの血とドイツの名誉の保護のための法律」(ともに一九三五年)について、少し触れていただくとよかったと思う。

 (人文書院・4536円)

<えんどう・まさたか> 1972年生まれ。政治学者。早稲田大などで非常勤講師。

◆もう1冊 

 井戸まさえ著『無戸籍の日本人』(集英社)。千人を超える無戸籍者とその家族を支援してきた著者によるノンフィクション。

 

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