東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書評 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【書評】

南風(みなみ)吹く 森谷明子 著

写真

◆俳句に目覚める青春

[評者]黒岩徳将=俳人

 毎年八月、松山市で開かれる「俳句甲子園」は、地区予選を勝ち上がった高校が五人一組のチームで俳句を競い合う。今年で二十回を数え、私が出場した十年前に比べ、注目度は格段に上がった。

 本作は「俳句甲子園」に挑む地元愛媛県の離島の高校生を描いた小説。著者には東京の女子高生が「俳句甲子園」を目指した小説『春や春』があるが、本作では、俳句の都における土壌の豊かさが物語の根幹を支えている。

 主人公・航太は同級生の日向子(ひなこ)に強引に誘われ、メンバー集めに協力し、自分も俳句を作り始める。俳句に興味を持たなかった主人公が、仲間との語り合いや他校との試合を通じて、その魅力に少しずつ気づいていく描写にはリアリティーがある。自身の進路や親きょうだいとの確執、恋愛、過疎化する故郷…。一人一人が抱える悩みを仲間に吐き出しながら、俳句という詩型で己の世界をどう表現するかと向き合う姿に、表現者として共感を覚えるのは私だけではないだろう。

 今年の「俳句甲子園」で、ある学校は「一時期は家族よりも長い時間をチームで過ごした」と言い、審査員は「毎日呼吸するように俳句を書いてください」とエールを送った。熱戦を繰り広げた選手たちに主人公らの姿が重なった。高校時代の心に帰って、多くの登場人物の視点から作品を楽しんでいただきたい。

 (光文社・1728円)

<もりや・あきこ> 1961年生まれ。作家。著書『千年の黙(しじま) 異本源氏物語』など。

◆もう1冊 

 神奈川大学広報委員会編『17音の青春 2017』(角川文化振興財団)。昨年の同大全国高校生俳句大賞の作品集。

 

この記事を印刷する

PR情報