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【書評】

小指が燃える 青来有一 著

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◆原爆を書く意味問う

[評者]陣野俊史=文芸評論家

 今年二月、被爆者として長い間長崎の原爆を小説に書いた林京子さんが亡くなった。著者の青来有一は戦後、長崎に生まれ育ち小説家になった。現在は長崎の原爆資料館の館長を務める。林さんとは親交も深かった。

 表題作について。主人公は長崎に住む作家。以前、「小指が重くて」というタイトルの小説を書いた。太平洋戦争末期、南島で飢餓に苦しみつつ行軍する兵士たちが死ぬと形見として小指を切断したというエピソードが出てくる小説だったが、十分に書いた感覚がない。そんな中、ときどき先輩作家が夢の中に現れるようになる。H(林京子さん)は、なんでも自由に書けばいい、と優しく声をかけるが、長崎に住んで小説を書く以上、原爆をテーマとして選ばざるを得ない苦しみから逃れられない。元政治家の小説家も夢に現れて(あの人です)、まだそんなテーマを追いかけているのか、売れる小説を書け、と叱咤(しった)したりする。

 本作の中心には、原爆の小説を書こうとする苦衷があり、その縛りを意識しながらそれでも原爆をテーマに小説を書くとは一体どういうことなのか、という内省がある。

 この小説が発表されたとき、林さんは御存命だった。没後、この小説を読むと、大きな空白と重圧が、著者のみならず、読者である私たちにも迫ってくる。

 (文芸春秋・1944円)

<せいらい・ゆういち> 1958年生まれ。作家。著書『爆心』『てれんぱれん』など。

◆もう1冊 

 青来有一著『悲しみと無のあいだ』(文芸春秋)。長崎が被爆した日の実相に迫ろうとした表題作など二篇を収録。

 

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