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【書評】

ブラック・フラッグス 「イスラム国」台頭の軌跡(上)(下) ジョビー・ウォリック 著

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◆欧米の介入が動機づけに

[評者]宮田律(おさむ)=現代イスラム研究センター理事長

 八月にスペイン・バルセロナなどで百三十人以上が死傷するテロが発生したように、イスラム過激派によるテロは果てないように継続している。

 本書は、二〇一四年夏にイラクとシリアの一部を実際に支配するようになり、斬首事件で日本社会をも震撼(しんかん)させた「イスラム国(IS)」の活動やイデオロギーの源流はイラク戦争開始後のイラクにあることを解明する。米軍のイラク駐留中に欧米人や日本人など外国人に対する残忍な行為や自爆テロを繰り返したヨルダン出身のテロリスト、アブ・ムサブ・ザルカウィは、ISに行動モデルを提供した。

 あらためて米国のイラク戦争の不合理ぶりが浮き彫りにされ、米国はサダム・フセインとイスラム過激派のつながりやイラクの大量破壊兵器の保有を捏造(ねつぞう)して喧伝(けんでん)した。またフセイン政権を打倒するとフセイン元大統領が出たスンニ派を政府や軍部から排除し、それがスンニ派部族とISなど過激派との同盟関係をつくることになる。

 イラク戦争は磁石のように外国の戦闘員をイラクに引きつけ、イラクの治安が悪化していく過程が本書では刻々と紹介される。米軍はイラクの民間人の犠牲を誤って出しても、その補償額は「警察犬一頭を買うぐらい」と異様に安く、現地社会への敬意がない。

 ザルカウィは、コーランを読み通すだけの教育的背景がなく、勝手な解釈を行う人物だったが、テロを行うようなISのメンバーたちの活動も宗教によって動機づけられているのではなく、政治・社会の矛盾、また欧米の介入などへの憤懣(ふんまん)から過激な活動に身を投ずることになっている。

 米国のトランプ大統領はアフガニスタンへの軍事関与を強めることを明らかにしたが、本書は欧米に少し過去をふり返って自らの側にも過激派の活動をもたらす要因があることを自覚し、軍事力とは異なる関与があることを教える。実に濃い中身となっている。

(伊藤真訳、白水社・各2484円)

 <Joby Warrick> 米国のジャーナリスト。2016年、本書でピュリツァー賞。

◆もう1冊 

 保坂修司著『ジハード主義』(岩波現代全書)。ジハード(聖戦)の名のもとに繰り返されるテロ。その思想の誕生と変遷をたどる。

 

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