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【書評】

ポピュリズムと「民意」の政治学 3・11以後の民主主義 木下ちがや 著

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◆同質化に抗う運動に未来

[評者]田仲康博=国際基督教大教授

 「ポピュリズム」という言葉には、どこかネガティブな響きがつきまとう。ヨーロッパで極右政党が台頭し、アメリカではトランプ政権が誕生して以降、それは概(おおむ)ね民主主義の衰退を表すキーワードとして使われてきた。そこにあるのは思考停止のままデマゴーグに付き従う無力な大衆のイメージだが、本書の新しさはもう一つの「ポピュリズム」に光をあてたことにある。

 本書は、個々人の自発的な意思にもとづいた「直接行動的社会運動」としてポピュリズムを位置づける。著者によると、いま世界の各地で起きている運動は、既存の政治勢力や党派による動員ではなく、各自それぞれの思いを抱いて自発的に集まり、ともに声を上げるという点において、これまでの大衆行動とは一線を画する。

 もともと国民を統合する原理をもたない新自由主義は、特定の層への富の集中をめざすために、新保守主義を味方につけて国民を説得する手段に訴える。運動する側としては、新自由主義による社会の「分裂」に抗(あらが)いつつ、同時に新保守主義がめざす社会の「同質性」にも対抗する必要があるわけだ。

 著者は、自律を指向することがそのまま国家の側に引き寄せられてしまう危険があることを指摘する。「同質性」の罠(わな)に搦(から)め捕られないためには、したがって運動もまた変化を強いられる。興味深いのは、著者が「予測不能で、非決定的で、偶然的なままである」未来においては、個々人の「自由の領域」が広がると考えていることだ。

 二〇一一年の震災と原発事故はこの国の政治と社会を攪乱(かくらん)した。旧態依然とした「秩序」に対抗する運動が、縦(過去の運動の記憶と経験)と横(他の地域の運動)につながり、人びとの間に民主主義的経験を蓄積させてきた。「分散的」かつ「ネットワーク型」の運動は空間を占有し、自らを「可視化」することで、「民意」をまとめ上げていく。本書が描き出す希望の源泉はあくまでも運動の現場にある。

(大月書店・2592円)

<きのした・ちがや> 1971年生まれ。政治学者。著書『国家と治安』など。

◆もう1冊

 水島治郎著『ポピュリズムとは何か』(中公新書)。南北アメリカ、西欧から日本まで、世界各地の現状を分析し、その本質に迫る。

 

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