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【書評】

私のヴァイオリン 前橋汀子 著

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◆冷戦下の留学生活も

[評者]渡辺和彦=音楽評論家

 ありそうでなかった前橋汀子に関する、自伝の体裁をとったコンパクトな本である。一九六一年八月、国交回復から五年に満たない時期に、旧ソ連レニングラード(現サンクトペテルブルク)へ留学。その後、ニューヨーク、スイスへと移動しながらソリストとして活躍し、日本へ帰国後の八〇年代には「演奏以外の仕事もこなし、忙しい日々を送り」、現在に至るまでのことが平易な文で語られる。

 小野アンナに師事した少女時代、「奏法を一からやり直した」レニングラード留学時のエピソード、師ミハイル・ヴァイマンから教示されたボーイング(弓づかい)やフィンガリングについての具体的な記述、冷戦下のレニングラードでの生活ぶりなど、じつに興味深い。文革期の中国から留学していたあの殷承宗(ピアニスト。四人組のお気に入りだったが、数奇な生涯を送った)と、部屋が隣り合わせだったという仰天話も。スイス時代のシゲティの様子、アメリカでのミルシテイン、ストコフスキー、さらにはオスカー・ココシュカとの交流話まである。

 ただし、八〇年代以降、日本での活動については、妹のピアニスト、由子(ゆうこ)の不幸な事故死について言及があるほかは、ほとんどオミット。当時は誰もが知っていたロマンスその他プライベートな話は書かれていない。短いながら、貴重なドキュメント本である。(早川書房 ・ 1620円) 

<まえはし・ていこ> ヴァイオリニスト。今年、演奏活動55周年を迎えた。

◆もう1冊 

 中村紘子著『ピアニストだって冒険する』(新潮社)。昨年他界したピアニストが音楽への思いを語ったエッセー集。

 

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