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【書評】

荷車と立ちん坊 武田尚子 著

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◆近代日本の物流支え

[評者]長山靖生=評論家

 荷車を助けて後ろから押したり、他人の荷物運びを手伝う「立ちん坊」。明治時代の小説で存在は知っていたが、まさかこんなに広範にわたって近代の庶民生活を下支えしていたとは。

 荷車は広く使われており、荷車の往来が多かった江戸では死傷者の出る「交通事故」も起きていた。明治以降は、車輪を大きくしたり、金輪をはめたりの「技術革新」が重ねられた。心棒も太く頑丈に改良されたが、積載量が多くなると事故被害も大きくなる危険があり、太さを制限した自治体もあったという。

 話題はさらに、陸運会社や組合の設立、都市の発展や戦争にも及ぶ。東京では人口増加・市域拡大に伴って、周辺地域からの食品などの物資輸送が増えた。東京は坂が多く、荷車と共に、その補助役として「立ちん坊」の需要も拡大した。日清戦争や日露戦争では、戦地での物資輸送のために荷車が徴用された。また戦後の兵隊や物資の大量帰還の際も、荷車や作業員は欠かせなかった。

 本書は自動車普及以前の日本社会で、荷車がいかに物流に大切だったか、その運営に「立ちん坊」が、どのように関わってきたかを、克明かつ多角的に解き明かしている。それは近代日本の生活史、社会史に新たな光を当てる行為でもある。行き届いた調査にも脱帽だが、何よりも着眼点が素晴らしい。

 (吉川弘文館 ・ 2592円) 

<たけだ・なおこ> 早稲田大教授。著書『ミルクと日本人』など。

◆もう1冊 

 鈴木勇一郎著『おみやげと鉄道』(講談社)。日本各地の「おみやげ」と鉄道など近代の装置との関わりを考察。

 

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