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【書評】

世界からバナナがなくなるまえに ロブ・ダン 著

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◆作物画一化から種を救う

[評者]藤原辰史=農業史研究者

 じっくり読み、思索に耽(ふけ)り、反芻(はんすう)する。そんなたぐいの本ではない。すぐに読み、広め、地球全体で議論せねばならぬテーマを扱う。決断を急がなければ、バナナやチョコレートだけでなく、キャッサバや小麦、コメまでも地球から消えかねない。作物に関わる政策決定者・科学者・商社・化学企業がすぐに本書を手に取り、議論し、決断をしなければ、後世の人間たちから地球を破壊した愚者として批判に晒(ざら)されつづける可能性が高い。

 二十世紀の地球の農業を、「飢餓の救済」という名目で変えてきた科学者や企業の多くは、農薬や化学肥料を広く販売するために、作物の品種と種類を少なくし、画一化してきた。当然、作物の多様性喪失のため、病原菌と害虫の攻撃を受けやすくなる。コナカイガラムシはキャッサバを、天狗巣病(てんぐすびょう)はカカオ豆を、葉枯病(はがれびょう)はゴムの木を、ごま葉枯病がトウモロコシを襲い、壊滅的な打撃を受けてきた事例が次々に報告されている。ブラジルの熱帯雨林に切り開いたフォードのゴム農園が葉枯病で壊滅したように。

 著者は読者を煽(あお)っているわけではない。こうした事態を招いてきたのは、本来は農薬によって害虫や病原菌を駆除すべく研究開発を進めてきた科学者や企業であったことを、彼らとの対話も経たうえで、膨大な科学データを駆使しながら説明しているにすぎない。とくに二十世紀の「緑の革命」や遺伝子組み換え作物の普及は、単一な種類の作物の世界的な普及を決定づけた。

 そんななかで、貴重な種子を貧弱な予算で人知れず守ってきた科学者たちもいた。あるいは、天敵を培養しコナカイガラムシを退治した科学者もいた。ケミカルな手段ではない彼らの試みには予算がつきにくい。イラク戦争に一週間に投じられた軍事費十億ドルの四分の一程度で世界中の種子を救うことができる、という批判が鋭い。

 脚注の充実度にも感銘を受けた。これだけでも読む価値があると思う。

(高橋洋訳、青土社・3024円)

<Rob Dunn> 米国ノースカロライナ州立大教授。著書『心臓の科学史』など。

◆もう1冊

 大塚茂・松原豊彦編『現代の食とアグリビジネス』(有斐閣選書)。アグリビジネスによる食料支配を指摘し、食のあり方を考える。

 

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