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【書評】

トラクターの世界史 藤原辰史 著

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◆農業増産、戦争を牽引

[評者]根井雅弘=京都大教授

 トラクターとは物を牽引(けんいん)する車、本書では、なかでも農業用トラクターを指している。このトラクターを軸にして、世界史を眺めたらどうなるのか。

 内燃機関を積んだトラクターの開発からその量産体制を確立した自動車王ヘンリー・フォードを経て、二つの世界大戦中にトラクターが軍事利用されていく過程を丁寧に叙述している。例えば、ソ連は計画経済の中にトラクターを通じた機械化農業の推進と農業の大規模化を組み込んだが、一九三〇年代には、ナチス・ドイツがソ連の計画経済に学んで、農業増産や補助金政策を通じて農業機械化を進めていった。平和なテクノロジーだったトラクターが戦車に軍事転用されたのも歴史の皮肉である。

 一九二〇年代のアメリカでは、トラクターによる農業生産力の上昇が、農産物の過剰と農産物価格の下落をもたらし、農家の経営不振や農業機械化に投資していた地方銀行の経営破綻をもたらした。これが二九年十月のウォール街の株価大暴落の一因となった、と主張する歴史家もいるほどだ。

 著者は「トラクターの社会的費用」、例えば環境破壊、石油の採掘、事故の多発、運転手の健康への悪影響も考慮すべきだとも言っている。テクノロジーの光と影をバランスよく取り扱い、ユニークな世界史に仕上がっている。

 (中公新書・929円)

<ふじはら・たつし> 1976年生まれ。農業史研究家。著書『カブラの冬』など。

◆もう1冊 

 藤原辰史著『戦争と農業』(インターナショナル新書)。トラクターが戦車に、毒ガスが農薬になった二十世紀を読む。

 

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