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【書評】

残像のモダニズム 槇文彦 著

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◆民兵的建築の可能性

[評者]市川紘司=建築史家

 槇文彦は一九七〇年代末、公共建築ではなく個人住宅を主戦場に実験的なデザインを展開する若い建築家を指して「野武士」と呼んだ。後ろ盾となるパトロンを持たず、日本各地にて独立独歩で逞(たくま)しく設計活動する彼らの姿を、戦国時代の主(あるじ)なき野武士のそれに重ねたのである。

 それから約四十年。槇は本書で再び新世代の建築家に注目し、今度は「民兵」と名付けた。地域社会の人々と密に連携したり、断片的な改修工事をも積極的に引き受ける彼らの、従来の建築家像からすればイレギュラーで、フットワークの軽やかな活動形態ゆえの命名である。対比されたのは、大人数で安定的に運営される「軍隊」としての組織事務所だ。

 槇が民兵的建築家に期待するのは、少子高齢化時代のコミュニティや空き家の問題等、現在日本で生じる社会・生活上の変革に応答することである。だが同時に状況の困難さも指摘する。確かに、国家や資本の論理に基づく軍隊的世界はグローバルに着実に駆動しており、民兵的建築家はそこにアクセスできていない。

 「民兵」と「軍隊」。両者の接続、ないし補完関係はどのように可能だろうか。野武士世代の伊東豊雄や安藤忠雄はその後、公共建築の設計へとステップアップした。本書が投げかけるのは、それとは異なる別のブレイクスルーの仕方をめざせ、という問いにほかならない。

(岩波書店・5616円)

<まき・ふみひこ> 1928年生まれ。建築家。著書『漂うモダニズム』など。

◆もう1冊 

 芦原義信著『街並みの美学』(岩波現代文庫)。世界各地の街並みを調査し、都市の構造や空間について考察。

 

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