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【書評】

享徳の乱 峰岸純夫 著

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◆幕府に抗し暗闘30年

[評者]川尻秋生=早稲田大教授

 享徳(きょうとく)の乱とは、若き日の著者が名付けた名称で、享徳三(一四五四)年に鎌倉公方(くぼう)(後の古河公方)足利成氏(しげうじ)が関東管領上杉憲忠を謀殺したことに端を発し、成氏と管領上杉氏、その背後に控えた足利義政との間に起きた東国の大規模な内乱を指す。その抗争は三十年近くにわたり、暗殺あり、騙(だま)し討ちありのようすは、ピカレスクと呼ぶにふさわしい。

 普通は凡将とされる足利義政が多数の「御内書(私信)」を送り、成氏側の武将を寝返らせたことなど、意外なエピソードも数多く語られる。関東の内紛が飛び火し、応仁の乱が始まったとする部分は評価が分かれるかもしれないが、読者の目には新鮮に映るのではなかろうか。

 本書でまず興味深いのは、公方と幕府との関係性だ。成氏を浮き立たせることで、室町幕府に対抗する東国の独自性を描き出すことに成功している。

 もう一つの特色は、文字史料だけでなく、歴史地理学や考古学を用い、道や水系から読み解く城や合戦の実像だろう。

 事件自体が複雑に入り組んでいることもあって、本書は必ずしも平易ではない。それでも読者を引きつけてやまないのは、数多くの遺跡保存や自治体史編纂(へんさん)を手がけて来た情熱に違いない。

 本書は、享徳の乱を語りながら、実は人生の来し方を見つめ直した、峰岸氏自身の「回顧録」なのではなかろうか。

(講談社選書メチエ ・ 1674円)

<みねぎし・すみお> 1932年生まれ。歴史学者。著書『中世の東国』など。

◆もう1冊 

 山田邦明著『享徳の乱と太田道灌』(吉川弘文館)。享徳の乱で上杉氏の重臣・太田道灌がどのように戦ったかを描く。

 

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