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【書評】

踊る星座 青山七恵 著

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◆風の軽みと切なさと

[評者]千石英世=文芸評論家

 すぐれたボケと一見すぐれていないツッコミからなるすぐれた漫才芸以上にすぐれた喜劇タッチの小説、なんともタッシャな語りぶりからなる小説なのだ。といっても片腹いたいワルダッシャというのではなく、逆で健康そのものなのだ。

 健康な笑いがスピードに乗って街を駆け抜けて行く体の小説だ。風刺もきいている。自己風刺すらきいている。でも、きき過ぎてはいない。結果、小説に軽みの風が吹く。切なさの風だ。軽快感のある笑い声と聞こえていたのは切ない叫び声だった。働き過ぎる都会人の疲労の果てのうめき声だった。

 登場人物の属性紹介が必要だろうか。キレの良い会話の運びがかれらの自己紹介になっている。みな話し上手なのだ。

 働き過ぎといって今を下り行くこの国の第二次産業の場でのことではない。これはもう第何次産業というのだろう。フラメンコ教室の先生や生徒さんにふわふわの衣装やがっしりとしたシューズをみつくろってはお届けに上がる業界、そんなこれも第三次産業というのだろうか。

 そこに働く若い女性が全身全霊を込めて、しかし風に吹かれるようにとりとめもなく右往左往する話である。短篇連作とも数珠繋(じゅずつな)がりの中篇ともいえる体裁だが、終章「諦めることと耐えることを同時に知る、あの子どもたち」の一人であるわたしと鋭い自省の言葉にたどり着く。

(中央公論新社 ・ 1620円)

<あおやま・ななえ> 1983年生まれ。作家。著書『かけら』『すみれ』など。

◆もう1冊 

 青山七恵著『窓の灯(あかり)』(河出文庫)。大学を辞め、喫茶店で働くようになった女性を主人公にしたデビュー作。

 

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