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【書評】

人間タワー 朝比奈あすか 著

写真

◆人の思い緻密に構築

[評者]井口時男=文芸評論家

 学校には危険がいっぱいだ。子供同士の「いじめ」、教師による「指導死」等々。近年話題になった組体操もその一つ。

 運動会の伝統として六年生による「人間タワー」を作りつづけてきた小学校。四つん這(ば)いの「ピラミッド」ではなく、児童が立ち上がる「タワー」である。百人以上で一つの高いタワーを作るのだという。危険が指摘される中で今年も実施すべきかどうかが焦点だ。

 六章仕立てで、章ごとに視点人物が交代する。離婚して実家に帰ってきた女性から始まって、タワー作りを指導する女性教員やちょっと冷ややかに見ている男性教員、当事者である六年生の二人の児童や、子供のころいじめられていてタワーに苦い思い出を持つ男など。作者は性別も年齢も経歴も異なる彼らの思いを見事に描き分けた。とりわけ、まだらに痴呆(ちほう)が始まりつつある老人を視点にした第二章の語り口が出色だ。

 しかも、新たな視点人物は必ずそれ以前の章でさりげなく登場していて、最終章で円環を閉じる。人物たちもきちんと連携して組み合っているのだ。

 最終章の「解決」はちょっと唐突で拍子抜けの感がある。しかし、読者を飽きさせない軽やかな工夫があちこちに仕掛けられている。タワー作りには設計図が必要だが、小説を構築する作者の設計図は実に緻密で繊細なのだ。

(文芸春秋 ・ 1620円)

<あさひな・あすか> 1976年生まれ。作家。著書『やわらかな棘』など。

◆もう1冊 

 柚木麻子著『さらさら流る』(双葉社)。裸の写真をネットにアップされた女性の苦悩と魂の再生を描いた長篇。

 

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