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【書評】

出羽三山 山岳信仰の歴史を歩く 岩鼻通明 著

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◆行者の道は、いまに続く

[評者]高橋義夫=作家

 東日本大震災の直後、万をこえる人々が被災地から山形へ避難してきた。出羽三山の八方七口の登山口の一つ、月山南麓の西川町岩根沢の宿坊には原発事故からこどもを守ろうと多くの家族が身を寄せ、ふだんはひっそりとしている三山神社(旧日月寺)の門前に、にぎやかなこどもの声がひびいた。

 その人々が、福島の浜通りの、檀那場(だんなば)もしくは霞(かすみ)と宿坊で呼ぶ、お行(ぎょう)さま(信徒)の土地からのがれてきた、とわたしはあとできいて、一種の感動をおぼえたものだ。文化の古層の下に眠っていると思われた、お山をたよる心が、震災という非常のときに、たしかな絆となってたちあらわれたように思えた。

 山岳信仰は歴史の遺産ではない。そんなことをあらためて感じさせる好著が、岩鼻通明の『出羽三山』である。出羽三山とは、羽黒山、湯殿山、月山の三山をさす。中世いらいの修験道の聖地だが、近世には庶民の信仰をあつめた。三山の歴史、文化、民俗を、岩鼻さんは実に目くばりよく、しかもコンパクトにまとめている。いまから三山のことを知ろうとする人々には、最良の入門書となるにちがいない。研究史的な要点はほぼもれなくおさえられている。

 勉強がきらいという読者には、第四章の「出羽三山を歩く」から読みはじめることをおすすめする。古絵図を手がかりに、羽黒山、湯殿山、月山の行者の道を実地に踏査するという趣向である。現在の風景の奥に、修験の歴史がうかびあがって見えるようで、一度山伏の体験をしてみたいという気になることうけあいだ。

 著者の岩鼻さんは、ながく山形大学農学部の教壇に立たれ、庄内地方から三山をながめてすごした学者である。山を研究するのに血の通ったという形容はおかしいが、文献研究や短期のインタビューではとらえきれない、三山信仰の古層と現状を探求する地の利を得た人だから書けた本である。

(岩波新書 ・ 972円)

<いわはな・みちあき> 山形大教授。著書『出羽三山信仰の圏構造』など。

◆もう1冊 

 銭谷武平著『大峯今昔』(東方出版)。大峯山系の動植物や信仰の歴史、登山をめぐる悲劇など、修験の山の秘話と悲話を紹介。

 

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