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【書評】

アメリカンドリームの終わり ノーム・チョムスキー 著

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◆民主主義を蝕むエリート

[評者]渡辺靖=慶應義塾大教授

 本書は現代米国を代表する左派論客ノーム・チョムスキーの長篇語りおろし。御年八十八歳の現在も、その舌鋒(ぜっぽう)は衰えを知らず、むしろさらに研ぎ澄まされてきた感さえある。

 著者曰(いわ)く、米国は民主主義国家ではあるが、建国当時からすでにエリート層の間では一般民衆の政治参加に対する懸念や警戒が存在していた。

 それが一九七〇年代以降、金融資本主義が席巻するにつれ、エリート層の支配欲はより剥(む)き出しとなり、政治を私物化し、民衆を無力化した。

 富裕層のみを相手にする「プルトノミー」(金持ち経済圏)というビジネス用語さえ飛び交う昨今、アメリカン・ドリームは風前の灯(ともしび)と化している。

 そして、皮肉なことに、民衆の怒りや憎しみは標的を誤り、「自分たちの利益を傷つけるような政治家たちを支持する」結果になっているという。トランプ現象の逆説を言い得て妙だ。

 もっとも著者の米国批判をもって、海外の読者が自国礼賛の口実とすることには留意が必要だろう。

 例えば、著者は「反米的」という表現が米国内で跋扈(ばっこ)している現状に対して、それが全体主義国家や軍事独裁政権など、異論を認めない醜悪な国家の特徴だと批判する。

 「わたしの知る限り、民主主義国家において、そんな言い方が嘲(あざけ)りの象徴になるのは、おそらくアメリカだけでしょう」と彼は危惧する。

 しかし、日本はどうだろうか。「反日的」という不寛容なレッテル張りが横行しているのではないか。

 著者は「若者を教化・洗脳する」「負担は民衆に負わせる」「合意を捏造(ねつぞう)する」など、米国の民主主義を蝕(むしば)んできた十の行動原理を詳述する。

 いずれも、程度の差こそあれ、日本にも当てはまる傾向でありながら、これまであまり言語化されてこなかった重要な視点である。米国に溜飲(りゅういん)を下げるためではなく、日本社会の自戒のための糧として本書を薦めたい。

(寺島隆吉・寺島美紀子訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン ・ 1944円)

<Noam Chomsky> 1928年生まれ。米国の政治哲学者。著書『人類の未来』など。

◆もう1冊 

 ノーム・チョムスキーほか著『チョムスキーが語る戦争のからくり』(平凡社)。巧妙な情報操作で利益追求を図る西洋の欺瞞(ぎまん)を暴く。

 

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