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【書評】

屍人荘の殺人 今村昌弘 著

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◆極限状況での謎解き

[評者]池上冬樹=文芸評論家

 いやあ驚いた。ホラー小説のあの題材を使って本格ミステリを展開させているからだ。しかも作り込みが素晴らしい。「奇想と本格ミステリの融合が、実に見事」(北村薫)という言葉に納得だ。

 神紅(しんこう)大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、同じ大学の探偵少女・剣崎比留子と共に、映画研究会の夏合宿に参加する。“今年の生贄(いけにえ)は誰だ”という脅迫状が届き、辞退者が続出していたのだ。

 合宿一日目の夜、みなで肝試しに出かけるが、そこで生死を分ける極限状況に直面して引き返す。やがて部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。

 閉鎖された環境での密室殺人を探偵少女が名推理で解きあかす…という設定だが、本書が異色なのは、誰もがみな命を狙われる状況にあることだ。死と対峙(たいじ)する絶望的な状況下で、なぜ犯人は殺人を犯すのかが大きく問われることになる。このロジックが実に緻密で面白い。

 今年は江戸川乱歩賞、横溝正史ミステリ大賞、新潮ミステリー大賞などある程度リアリズムを担保とする推理小説賞に受賞作が出なかったが、謎解きやトリックに力点をおく鮎川哲也賞は史上まれにみる激戦で、本書が栄冠を勝ち取った。折しも今年は綾辻行人や法月綸太郎などの新本格ミステリが誕生して三十周年。三十二歳の新人今村昌弘が、一段とジャンルを深化・洗練させていて感無量だ。

(東京創元社・1836円)

<いまむら・まさひろ> 1985年生まれ。作家。本作で今年の鮎川哲也賞を受賞。

◆もう1冊

 陳浩基著『13・67』(天野健太郎訳・文芸春秋)。香港の刑事の警察人生を一九六七年まで振り返る本格ミステリー。

 

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